毛の生えた愛 | New 天の邪鬼日記

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小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

 愛猫コマの腫瘍が再発した。
 2ヵ月ほどまえ摘出手術に成功し、5歳くらい若返ったコマだが、2、3週間くらいまえから右頬がふくらみはじめ、ピンポン玉くらいのしこりになった。写真でもわかるように右頬がけっこう腫れてるでしょ。
 かゆくて引っ掻いたらしく、布団や床に血が飛び散っている。3日後の月曜日に再手術の予約をいれた。まだ体力はあるから、麻酔に耐えてくれることを祈る。
 今まではコマをイタリア風に「イル・クオーモ」と呼んでいたが、ワールドカップも近いので最近はドイツ風に「ゲオルグ・フォン・ホーウェルポポフ男爵 」に改名した。
 朝起きるとエサをよこせとやってくるコマにこうあいさつする。
「 グーテン モルゲン(おはようございます)、ゲオルグ・フォン・ホーウェルポポフ男爵。イッヒ ハイセン AKIRA(私の名前はアキラです)ヴィーゲーツイーネン?(調子はどうですか)」
「勝手にワシの名前を変えるな。しかも長すぎ。調子なぞどうでもいいから早くエサをよこせ」というまなざし。
「ゲオルグ・フォン・ホーウェルポポフ男爵、ヴィルコメン イン ニッコウ(ようこそ日光へ)。イッヒ ビン ジャパーネリン(私は日本人です)」
「ワシはもう日光に10年も住んでんだ。おめえが日本人なんてこたあわーてるから、エサよこせ」というまなざし。
「アッゾウ(あっそう)。ゲオルグ・フォン・ホーウェルポポフ男爵、ハーベ・フンガー?(お腹がすきましたか)」
「フンガー! 腹へってるに決まってんだろ、だろうがにゃあ」というまなざし。
 オレは怒りの眼に押され、缶詰をあける。
「ゲオルグ・フォン・ホーウェルポポフ男爵、グーテン アペティート(よいお食事を)」
 いっしょうけんめいエサをむさぼる後ろ姿がいじらしく、「スリスリ衝動」が突きあげてくる。
「おい、ゲオルグ・フォン・ホーウェルポポフ男爵。そなたの正体を見破ったぞ。そなたはゲオルグ・フォン・ホーウェルポポフ男爵ではない。そなたの正体は……」
 やにわに飛びかかったオレはモコモコの毛に顔をすりつける。
「毛の生えた愛なのね!」
 食事を邪魔されたゲオルグ・フォン・ホーウェルポポフ男爵は、ものすごおーく迷惑そうにふりかえるが、オレは「スリスリ衝動」を止めることはできない。
「イッヒ リーベ ディッヒ(I love you)、毛の生えた愛よ。イッヒ リーベ ディッヒ、モコモコの愛よ。イッヒ リーベ ディッヒ、イッヒ リーベ ディッヒ、イッヒ リーベ ディッヒ!」
 毛の生えた愛は、ひげの生えた狂気を哀れむように見下した。
「愛はいいから、エサよこせ」