ブリンカー | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

 大学入試センター試験の1日目がはじまった。
 志願者数は2年連続で減っている。もう大学出たからなんとかなるって時代じゃないもんな。
 試験は全6教科32科目で「学力低下」対策から5教科7科目以上を課す大学は、2003年度は63大学、04年度は91大学、今年は105大学と増えてんだって。こういう平均化もやばいよな。専門分野に特出した人材が育ちにくくなる。
 世間は受験や就職で大わらわだけど、オレはこう思う。

 みんな自分の人生決めんの早すぎるんじゃねえの。

 受験や就職は「自分がなにをしたいか」を探す無数の方法の中のひとつにしかすぎない。
 もちろん勉強は大切だし、食っていくことはもっと切実だ。だから本当に勉強したいやつが大学に入り、働きたいやつが就職すればいいのに。ネアリカに参加した 明子さんは49歳でみごと早稲田大学に合格し、30歳も年のはなれた同級生たちとキャンパスライフを謳歌している。
 悩み相談メールでよくもらうのが、「自分がなにをしたいかわからない」というものだ。これは10代、20代だけじゃなく、30代や40代からもある。
 「自分がなにをしたいか」は人生のメインテーマだし、生きてるうちに見つかればラッキーなほうだろう。
 大人たちは自分でも見つかっていないくせに、若者にすぐ決めろと強要する。競走馬のようなブリンカー(前しか見えないよう集中させる目隠し)をつけさせ、受験と就職以外の選択を敗北のように喧伝する。
 危険なのは、子どものときからブリンカーをつけられていると、そのことさえ忘れてしまうことだ。極端に限定された視野を全世界と思いこみ、すべてをその中で判断するようになる。別の視野をもった人から話しかけられても「そんなはずはない」と排除する。だって自分は真っ直ぐ前を見て走ればエサをもらえるし、時には栄誉さえ手にはいるのだから。
 たとえば海外旅行のツアーで団体からはずれると怖い目に遭う。
「ほらほら添乗員(調教師)の言うことを聞かないからこんなことになるんですよ。みんなといっしょにいれば安全ですから。さっ、もどって」
 せっかくブリンカーをはずすチャンスだったのに、これでますます強化されるわけだ。
 日本の教育は自尊心と恐怖をつかってブリンカーを温存してきた。有名大学を出たり、一流企業に就職したからって幸せになれないのは周知の事実なのにね。
 どうすればブリンカーをはずせるのか?
 まずは自分の知らない世界が存在するのを認めること。オレ自身これは痛切に認めている。オレもまだまだブリンカーを完全にははずし切れてないと自覚している。
 いきなりはずすと、恐怖やパニックにからめとられて大人の思うつぼにはまるから、盗み見や盗み聞きで練習するんだ。自分とちがう世界観をもった人の話をリスペクトする。コツは「分析」や「断定」をしないで、他者に対して謙虚に耳を澄ますことだ。
 頭でなんとなく理解したら、つぎは行動だ。
 恐竜の時代に生まれてたら君はネズミの脳しかなかったかもしれないし、つぎに生まれ変わったら人間は脳だけの生き物になっているかもしれない。今回君に与えられた肉体という感覚装置をフルに稼働させて、世界を知覚し直そう。
 このへんからおもしろくなってくる。
 ブリンカーをずらして左右の風景が見えてくるからだ。同時に視覚過多、思考過多になっていた自分に気づく。これから君は感覚重視になってくる。
 この時点でやっと人生最大のテーマ「自分がなにをしたいか」を探す新しいステージに立てる。
 世界のさまざまな風景に自分をおくことによって、反応や相性を試してみる。最初はあまりに理不尽な価値観のちがいに怒りまくったり、無力感に襲われるだろう。でも自我とか自己とかを開けはなったとたん、だんだん自分に植え込まれた常識やモラルが壊れていくのが快感になる。
 君は生まれたての赤ん坊のように世界を吸収する。はらわたの底から世界を愛してると実感するんだ。
 さあて、ここからが問題だ。
 ほんのちょっとの勇気があれば、世界を丸ごと抱きしめ、ひとりで悟ることはできる。でもね、はっきりいって「悟る」よりむずかしいのは「伝える」ことなんだ。
 ブッダだってビビって最初は鹿に話しかけたし、難易度は「What=なに」を悟るかより、「How=どう」伝えるかのほうが高い。
 「自分がなにをしたいか」という問いは、
 「自分がどう伝えたいか」につきる。
 遠い旅からもどってきた君はあふれんばかりの喜びをどう伝えていいかわからない。やみくもに叫ぶばかりでは友人たちからも引かれ、しまいには彼らに責任転嫁し、「誰も自分をわかってくれない」とふたたび殻に閉じこもってしまう。
 社会との「共通言語」を探すことだ。
 金にならない創作でもいい、NGOでも、添乗員の仕事でも、コンピューターのプログラミングでも、八百屋の店員でも、恋人にむける笑顔ひとつでもいい、君が観てきた世界をまだ旅立たぬ人たちにほんのちょびっとでも伝えられれば最高だ。
 まずは伝えたいなにかを探す。
 そしてどう伝えたいかを探す。

 やべえ、すげー長文になっちまった。素樹文生からも「あんまり長いと携帯で読んでくれないですよ」とかアドバイスされてるし。そろそろ究極のオチをつけるか。

「自分がなにをしたいか? わからないんです」
「あっ、答えはかんたん。今君がやってることだよ」