映画『パラダイス』の感想 | アキラの映画感想日記

アキラの映画感想日記

映画を通した社会批判

末期資本社会に抗え

 

 

パラダイス 人生の値段

 

ドイツのデストピア系SF映画。米国で社会課題をSFとして描く作家といえば近年ではアンドリューニコルが有名だが、その作風に近い内容。特に今作は『タイム』にソックリな設定です。ただ米国産と違って欧州産は多少なりとも文学的。今作で商品化されてるのは単純な寿命だけではなく若さ。それもドイツ周辺の東側途上国の難民から市民権と引き換えに搾取している。そんな卑劣な市場を始めた民間企業に勤めるエリート社員が高級住宅の火災でローンの担保にしていた妻の若さを40年分失った事から社長を狙った誘拐事件を起こし寿命の売買に抵抗するテロリスト側に流されてゆく。それまで散々搾取して来た側でも自分が収奪される側になると変わるものです。この主人公は典型的な微温湯人生タイプなので痛みを知るまで分らなかったのだろう。そして他人事になってしまえばポリコレやコンプラを並べようとする。ただ最後のナレは本心だろう。この男は子供を持ち損ねたという犠牲を払った。だからこそ自分の子供ではなく未来の世代全般の為に命を捨てる側に回るのだ。どちらにせよ大切な人を失えば誰もが特定の誰かではなく信念の為に命を捨てる無敵の人=アローンガンマンになってしまうのだから。

 

この作品中には寿命を商品化する事の先に人間の奴隷化もあるみたいな事を云う奴がいたが、それは大昔にマルクスが危惧した現象の一部。米国のニコルは時間の商品化のほかにも『ガタカ』で格差社会を『シモーヌ』でフェミニズムを『アノン』でメディア問題をと様々なテーマを扱っているようにも見えるが、その根底は一貫していて全ての問題が資本社会の自滅局面で起こる現象としてマルクスが提示していた問題です。あらゆるものが商品化され巨大資本に収奪され庶民が生きる術を失い生産不可能状態になりプロレタリア層のみならず、その恩恵を受けていたブルジョワ層も破滅する。そんな自滅に抗う知恵が人類にあった前世紀ではナチズムやファシズムやコミュニズムによって国際巨大資本に全てが踏み潰される末期資本社会に抵抗した。それが必要な局面が今再び目の前に迫っているが痴呆化した現代の人類は頑なに目を背け続けています。この映画は皮肉を孕みつつもテロリストを肯定する側面がある訳だが、それは当たり前だと云いたい。クズやバカでなければ「テロリストにならねば次世代を救えない」と考えるのは当然の歴史的局面に我々はいるのです。