映画『蟻の兵隊』の感想 | アキラの映画感想日記

アキラの映画感想日記

映画を通した社会批判

若い世代と出会う

 

 

蟻の兵隊


先日、某左翼新聞が靖国に関する天皇ヒロヒトの発言を公開し波紋を呼んでいるが、皮肉にもこの作品やソクーロフの『太陽』にとっては良い宣伝効果になったのではないだろうか。冒頭に靖国で初詣に来た女の子達と話しジェネレーションギャップで笑わせてくれるシーンがあるが残念な事に映画としてはそこだけで完結している印象がある。このドキュメントの肝は欲望の変化に迫れていないから純粋に若い世代との出会い以上の地点には至っていない。現地の中国人たちの言葉は主人公の中に何かしらの変化をもたらしているかのように見えたが、その部分が帰国後の行動で見せていないのは残念だ。撮れなかったのだろうか。

 

初日はシアターイメージフォーラムの前に蟻の様な老人たちの長蛇の列。大東亜戦争の生き残り組だ。一体どこで情報を仕入れたのか公開初日にちゃんと集まり戦友会状態。この世代は戦争を肌で知っている。虐げられもせず分るふりをして戦争を体制批判の道具にしてる偽善者とは違う。とは云え、この作品の主人公は終戦当時初年兵。つまり敗戦前の土壇場で召集され大陸に送られた。だからまだ戦争経験者としては比較的若い。ところが彼らは終戦後A級戦犯が東京裁判を逃れる為にマッカーサーへの口利き料として国民党に売られた。どこの上層部にも豚はいる。国家の財産である軍隊を横領し賄賂にするとはとんでもねえ売国奴だ。

 

この作品は反戦ってよりも戦後国際犯罪の告発。重大な国際法違反を恐れた政府側が沈黙するのも仕方ない。もし彼らが騙された通り天皇陛下の為に戦っていた事を認めて賠償したら日本国家の犯罪になってしまうのだから。前作やこの主題からしてこの監督はAP系かな?中国には詳しいけど日本に暗い印象を受ける。日本国内を中心に報道やドキュメントに関わる人だったら高裁前で止められる映像なんてあまりない。あえてやる事はあるけど古くから日本の報道の常識だから。撮る側に今風の軽さを感じるのは魅力だが、この主題はやはり遅過ぎる。同じ大東亜戦争の棄民を追う話でも『無法松故郷に帰る』には到底敵わない。