映画『Sweet Rain』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

業務的な判断

 

 

Sweet Rain 死神の精度


長編デビューって事で10年ぶりに見た筧作品。業界紙も含め最近のインタビューではあたかも娯楽路線に目覚めたのは最近みたいに語っていますが、私が知る限りではPFFで受賞した『スクラップ』だけが本格的な実験路線で、それ以前の日大時代や高校時代に自主制作で撮っていた頃の作品はモロに娯楽路線。確かに実習で関わった短編の中には実験を目的とした作品もあるし、モノクロの中編『スーツ』ではワンシーンワンショットの長回しに挑戦していたりもするんだけど、当時流行のPuffyをくり返し熱唱する所とか思わず笑ってしまう所がいっぱい。ユーモアを忘れた作品はひとつもない。中学時代に漫画家デビューしただけあって笑いのセンスは同じ日大出身の芸人”爆笑問題”みたいなキレがあったからこそ彼の作品は嫌いになれないのです。

 

そのセンスに対して金城の拙い日本語での浮世離れした死神役は絶妙のキャスティングではありましたが、思ったほどは笑えませんでした。プロのスタッフキャストが加わる事で全体的に無難になり過ぎています。CD屋の店員役でちょっとだけ登場した面白い顔の彼は昔から筧映画の顔です。特技は耳を動かす事。こういったプーズワークスの奇怪な面々の面白さは内輪ウケのレベルで終わる懸念があるから削ぎ落としてるんだろうけど、やっぱり変に気取るよりは素人っぽくても筧流の笑いをもっと散りばめて欲しかった。どちらにしても既に「あみだくじだ」の件とかモロに筧さんのマンガっぽさが出ているのだから躊躇う理由はないはず。

 

お話は死神が出会った一人の女性とその息子の人生の3つの断片。ちょっとばかり見せ方がトリッキーだからオムニバスであるかのように錯覚させるんだけど、話の途中で前のエピソードとの繋がりが見えて話が繋がっていくってな構造。その構造自体はあまり意味を成しているようには見えない。CMで「死神がいつもと違う判断を下した時から…」みたいな語りが入るけど、いつも実行だから保留がいつもと違う判断って訳で別にそれが特別な判断ではない。何かを成し得ると判断したから保留にするのは極めて合理的で業務的な判断。そこがドラマとしてイマイチ弱い所。繋がりは死神にとってもサプライズなんだけど、それに対して全くリアクションを期待できない。この死神は主人公ってよりも狂言回しで対象になった女性の方が主人公と考えると一応ドラマとして成立してるんだけど、それならこの構造でなくても良さそう。こーゆー構造なのだから3つの時代で一人の女性の人生の断片を見た死神の何かしらの個人的感情が見えるリアクションが欲しかった。