映画『朱雀戦記』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

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朱雀戦記


未来世界でサイボーグ同士が戦う典型的なSFアクション。がっつりCGを作り込んで大衆が求めるような派手な映像に仕上げています。ただ、あまりに短い尺にテーゼ通りに詰め込み過ぎていて商業的な手堅さ以外に感じられる所はあまり多くない。まあ映像的に『トロン』シリーズなどのサイバーパンク系へのリスペクトだけは感じられる訳だが。それと大切な相手を失う事で覚醒してメチャ強くなってラスボスボコボコにする少年ジャンプテーゼ。この物語に登場する悪役や主人公は人工的に自らの体を作り変えたサイボーグのような存在。並外れた運動神経による格闘術で街のチンピラを捻じ伏せる。そんなヒロインが街を支配する悪役の手の者に捕まり出自を知らされるがレジスタンス部隊によって救出されてチベット山中に潜伏する。やがて悪役の手はそんなレジスタンス内のシステムにも迫り最終決戦へと雪崩れ込む。いわゆる絵に描いたような王道展開です。だからって所もあるがハリウッド映画以上にこの作品には全く人間性を感じません。このヒロインはロボットとしか感情を通わせていない訳だが、それすらも全く深みを持たない。ただただ売れる記号を並べただけだから人間的ではない脚本になったのか或いはあえて人間性を排しているのか。

 

この悪役の部下にはボスが既に人間ではない事を知って抹殺される白髪のイケメン君がいます。むしろ今作で最も人間的だったのは彼のように思えます。この悪役は進歩主義的な科学者で、より高性能な人間を作ろうとして人体実験を繰り返し、その成功例がヒロインだった。そして進化した人間だけが選別され生きる事を許されたデストピア。それに抗ってヒロインを盗み出したのがレジスタンス。この構図からしてレジスタンスの方はもっと人間的に描かれていても良さそうなものだが、そちらも悪役とは違う形のプラグマティズムの中にいる感じ。これが正に文化なき表現って奴なのか。かつて統制社会の外側の人物って奴はもっと訳分らん奴等という描き方が普通だった。それこそが人間性のバッファだから。もっと人間は本来アブノーマルで多様で禍々しい存在であるって事実をプラグマティズムで切り捨ててる印象。結果として分かり易くはなっているがヌーベルバーグ作品のように人間的な魅力って奴がほとんどないドラスティック過ぎる合理性に陥ってしまっています。そんな作品を生んでしまうのが現代というデストピア。