映画『ボーダーライン』の感想 | アキラの映画感想日記

アキラの映画感想日記

映画を通した社会批判

犯罪都市は戦場状態

 

 

ボーダーライン

 

中南米には常に貧困と犯罪のイメージが付きまとう。これは不平等貿易で米国に搾取された結果に他ならないが、それを持って米国メディアが中南米を叩くマッチポンプ。そんな卑劣なプロパガンダ戦略の片棒をヴィルヌーヴも担ぐ。この物語は米国内の女性FBI捜査官が連邦中央組織にスカウトされ地元犯罪の黒幕を追ってメキシコの麻薬カルテル摘発に参加するってな内容。法治国家で犯罪を取り締まる業務に従事してた彼女にはカルチャーショックな現場。街中には見せしめの惨殺死体が吊るされ怪しい奴は即射殺。保安活動ってより戦争に近い。そんな現場で麻薬組織と戦う側は手段を択ばない。この捜査官も戦場の駒として利用される。なかなか胸糞かつヴァイオレンス度が高いクライムアクションでした。ただ古くはペキンパーの『ガルシアの首』から、その弟子ウォルターヒルの『ダブルボーダー』、ソダーバーグの『トラフィック』、オリバーストーンの『野蛮なやつら』等B級米国アクション含めメキシコカルテル関係の数多くの犯罪映画の中では割と静かな印象を受けました。そこはやはりヴィルヌーヴ作品だけあって独特の美学を崩してはいません。

 

ここ最近のハリウッドはユダヤ資本に群がるヒスパニック映画人の才能で成り立っている訳だが、そもそも米国特有の映画文化って奴で欧州からのパクリでないジャンルってジョンフォードに始まる西部劇に他ならない訳で、それは南西部の幾つかの州とメキシコが舞台になる事が多い。つまり"米国的"とされる文化は昔から中米的な文化を含んでいます。そしてそれを形にする才能も近年では中南米出身者が多い。その点からすればメキシコ国境に壁を作るという米国の移民ヘイトは矛盾を孕んでいます。『フローズンリバー』『サウスパーク劇場版』等を見ても分る通りヴィルヌーヴ自身の出身国であるカナダを含め米国人は周辺国からの移民をヘイトする傾向があるが、そもそも移民の存在が文化も社会も支えてる。この映画でも密入国用のトンネルとかが登場する訳だが国境の中と外で文化的差異を感じる所はありません。ただ知的に劣化した米国人は国境に壁を作れば移民問題は麻薬犯罪と共に解決すると妄想を抱きトランプのようなポピュラリスト政治家がそれを利用してるだけ。そこにあるのは周辺国への収奪で利権を貪って来た老害大国の断末魔。犯罪組織もバランスが変わるだけで消える事はありません。