映画『春に散る』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

次はない

 

 

春に散る

 

スゲー試合を見せて頂きました。ピンク四天王最高のヒットメイカー瀬々敬久の新作は拳で語る男の世界を描いたボクシング映画。佐藤浩市とか哀川翔とか周囲を固めるベテラン勢の芝居もさる事ながら、キャラの魅力と白熱の試合でグイグイ引き込む直球勝負。大人の事情の判定負けでチャンピオンを逃した男がかつて世界で活躍したボクサーに偶然出会って弟子入り。その技術を盗んで再びチャンピオンに挑む。この主人公が最初は力技で押しまくるタイプだったのが試合を重ねて成長する度に動きがテクニカルに洗練されていく感じが見ていてワクワクさせられます。タイトルにも表れているように主題は特攻精神にあるのだろう。つまりは捨て身で挑む格闘の礼儀。自分が殴られないで相手を殴る事で勝てると思ってはいけない。クロスカウンターで相打ちする覚悟で臨んでこそ芯から人を感動させるような勝負ができる。そんな道理を改めて再認識させられるような内容です。ただ後半のスローモーションには迫力がなく、ここは曽利文彦版『あしたのジョー』みたいにガチでプロに殴らせてハイスピード撮影して加工して欲しい所だが瀬々氏はCG加工に頼るタイプじゃないので最終ラウンドは絵的に微妙です。

 

チャンピオン戦目前にして主人公は網膜剥離を起こしかけ試合を棄権するか否かで師匠と意見が割れる訳だが、ここら辺には世代間の認識の差が出ています。この主人公が最初に住んでいる所を尋ねられた時「マンガ喫茶とか」と答えてる事から察するに現代劇だろうから。かつて『糸』等の時代背景として凋落の平成における若者の肌感覚の変化を描いた瀬々だけに古い世代の悠長な感覚が若者に通用しない現代の惨状は分かっています。つまり生きてさえいれば希望があるのは、まだ未来があった世代の感覚です。もはや崩れつつある世の中で千載一遇のチャンスが巡って来たなら、いくらでもリスクを取る価値がある。つまり衰退滅亡がほぼ確定してるなら死んでも刹那の享楽に夢を見た方が得だという合理的判断が若者にはあるのです。それは普遍的な生き急ぎではないのだから未来があった逃げ得世代なんかに若者を止める権利はない。やれるうちにやりたい事をさせてやらねば未来はないのだから。そしてこの若者の判断は正解だと云えます。ここまで白熱した試合を繰り広げる体験は得難い価値です。むしろ失明したとしても羨ましい位の体験なのだろう。