映画『宇宙兄弟#0』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

イノベーターは左遷

 

 

宇宙兄弟#0

 

エピソード0って事で、まだ兄の方が王手自動車メイカーで働いていた頃のエピソードが描かれています。その一方で弟の方はNASAで伝説のカリスマ宇宙飛行士に抜擢されて指導を受ける訳だが、この宇宙飛行士も兄弟の弟だったので彼にシンパシーを感じていたようです。それに対し兄の方は何かと弟にコンプレックスを抱いているが実際には兄の方もスペックが高く実は直接口には出さないが弟に尊敬されていたりもします。この兄弟の絆の部分がマンガのメインテーマであり、それはソビエトが生んだ世界最初の宇宙飛行士ユーリーガガーリンの思想にも通じています。

 

ただ本作で兄の方は極めてイノヴェイティヴな提案をプレゼンした事で地方に飛ばされてしまいます。そんな訳で今作からは、かつて日本の主力だった自動車産業が廃れた原因の片鱗が見えます。もはや世界のトップクラス企業からは日本一のトヨタすら消えました。この兄の提案は少なくとも消費者に寄り添っているし未来志向で公共的です。だが日本社会ってのは良くも悪くもしがらみが多い。ただ単に上司が新規技術を理解できていないという風に描かれてはいるが、もし理解できていた所で革新を起こせば町工場に降ろす仕事がなくなってしまいます。つまりは日本社会は様々な既得権の中で仕事を回しているのでイノベーションを起こせない。こうして価値を産める人材は自分が活躍できる場を求めてどんどん海外流出するのです。この兄が田舎町でトラクターを直すという行為も「新車を買い替えさせる」という企業の利益には反する。だがそこにこそ公共的な価値の創出がある。

 

つまり日本の大企業は公共的価値を蔑ろにして産業としての既得権を守る為にブルシット化したので価値を生めなくなったから世界中から棄てられたのです。もし日本企業がこの兄のような公共的な人材を重宝する場であったなら日本経済はここまで沈没しなかっただろう。つまり倫理道徳なき所に知性なく知性なき所に能力なく能力なき所に価値はない。それで見捨てらて僅かに残った既得権を求め更に大衆は倫理道徳なき存在になる。この負のスパイラルで尚更に日本企業には保身の為に自分より優れた人材を蹴落とそうとするクズが増えています。かつて実力派プロダクションだった私の所属先すらも大企業負け組のクズが増えて、やった感だけ出す椅子取りゲームを始める位ですから。そんな実感を今作に重ねて見ていました。