映画『海辺のリア』の感想 | アキラの映画感想日記

アキラの映画感想日記

映画を通した社会批判

仲代達也劇場

 

 

海辺のリア

 

今世紀に入って以降『バッシング』『日本の悲劇』と壊れてゆく日本のシワ寄せで虐げられ悲鳴を上げる人々を痛烈に描き続けた小林政広だが、ここ10年ほどは完全に仲代達也にベタ惚れって感じです。この作品中でもミフネについて語るシーンがあるが「もはや彼以外に黒澤明の時代のような芝居ができる役者は残っていない」と小林氏が云う通り戦中世代までの立派な日本人は得難い存在です。この作品は『春との旅』と同様に高齢化問題の一面を切り取るという類でありつつ、そこに芝居というテーマを重ねています。タイトルのリアとは云わずと知れたシェイクスピアの"リア王"であり自身の人生がそのストーリーに重なるという仕掛けになっています。そういえば『家へ帰ろう』ってアルゼンチン映画の設定も今作と同じリア王ベースでした。つまり娘たちの中で誰が最も親孝行かを見誤った哀れな父親の話。本当に親孝行だった娘は家を追い出され遺産を手にした強欲な娘は父を老人ホームにブチ込む。この父親はかつて有名俳優だったという設定がまるで仲代自身を語ろうとしてるかのようだが今回は娘婿役で安倍ちゃんも熱演しています。

 

かつて名優に惚れ込んで弟子入りした娘婿。役者の夢を諦めた後も裏方としてマネージメント会社を設立。不景気で経営が苦しくなる中で義理の父の生命保険が下りてくれると有難いと本音を漏らす鬼嫁に憤る。この辺のやり取りに拝金主義的な現代人へのアンチテーゼがあるようにも見えるが、いつもの鋭い社会派作品と違って明確に訴える所はない。これは是枝作品に例えるならドゥヌーヴの舞台裏を描いた『真実』みたいなものだろう。この作品では海をバックに仲代が一人芝居でリア王を演じるシーンがある訳だが、これぞ正に芝居って感じの視点でじっくり魅せてくれます。リスペクトする役者を現実と同じ役者という役柄でただただ撮りたいという小林氏の仲代愛がダダ洩れって感じです。その気持ちは今となっては何となく分かります。この手の戦前戦中世代の立派な知恵者の老人は私が子供の頃には身近にも結構いて、その頃は日本人にも知性があった。だが月日が流れその世代の多くが老衰で亡くなった今となっては昔から軽蔑していた無知無能な戦後世代のみっともない乞食パン助クソムシ老害だらけになった。そんな親米売国奴クソジャップ老害だらけの現代において仲代のような存在は正に掃き溜めに鶴なのだ。