映画『リバー、流れないでよ』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

むしろ戻りたい
 

リバー、流れないでよ


会社の新人から紹介され拝見。最近流行のタイムループ系な訳だが本作が特徴的なのは繰り返すスパンが異常に短くたった2分で振出しに戻ってしまうという所。観光地の旅館を舞台に従業員と宿泊客たちがこの奇妙な現象を楽しみながらも解決策を模索するってな過程が描かれています。ここに登場するキャラは基本的には山田洋次映画に登場しそうな呑気な奴が多くて本格的なパニック状態には陥らず、あくまでもお茶の間コメディって感じの内容です。それ故に見ていて退屈はさせません。それにしても普通に考えれば、こんな風に奇想天外な事が起きている割に、この平常心は異常です。つまりはタイムリープというSF的な超常現象に対して我々は妙に免疫を持ってしまっているって事です。アニメでも映画でも最近はこの手の国内コンテンツが異常に多い。ざっと『東京リベンジャーズ』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『青天の霹靂』『僕がいない街』『江ノ島プリズム』…と映画だけでも数え始めたらきりがない。かつて80年代には押井の代表作『ビューティフルドリーマー』は前衛扱いされる程に奇妙な作品とされた訳だが、そっちの方がデフォと思える程に時間が止まったり遡ったりする作品が増えた。

 

やはりこれは大衆の欲求の現れだろう。それこそ最も露骨なのは『バブルへGO!』だろう。ここ30年間経済大国から転落し続けて未来には更なる貧困化しか待っていない。そんな時代を生きていれば「流れないでよ」と時間を止めたくなる気持ちも良く分ります。むしろ時間よ戻れとバブルへGOしたくなって当然でしょう。つまりは未来に夢を見れなくなった国ならではの娯楽なのです。それと貧困化という事情は当然ながら制作側にもあって安く作れるSFとなると大規模なセットもCGもいらないタイムスリップ系が都合が良いのです。この作品には一応タイムマシンという大道具が出て来る訳だが何ともショボい。なんちゃって話だからとか作品ブランドに合わせたデザインにしたとか言い訳は色々立つのだろうが大して金のかからない造形です。どんなに詭弁を弄した所で祖国の転落と貧困化は紛れもない事実であり、それが更に大衆心理を現実逃避へと追いやっています。だから時間が止まっても驚かない位に認知バイアスが捻じ曲がってしまった。これを私も普通に笑って見てた訳だが、そんな異常な感性になっている私自身も含めて、この国を蝕む精神病は既に末期的です。