映画『サンセット』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

敵意丸出し
 

 

サンセット


ラースロー作品は今回も手持ちで主人公の背中ばかりを追いかけるセミドキュメンタリースタイル。ヒリヒリするような現場感覚が伝わって来る上手さはあります。サラエボ事件前夜のブタペストが舞台。事件で暗殺された大使も通っていた高級帽子店のお家騒動がミステリータッチで描かれています。どうも明確には語られないが店の雰囲気から察するに主人公一家は元々帽子店の創業者だったようだが何かしらの事件でオーナー夫妻は殺され娘である主人公は体良くパージされたって所だろうか。この主人公のデザイナーとしての腕に割と歓迎ムードだった店内が彼女が創業者の娘だと知った途端に凍り付く。そんな元古巣に対して彼女は最初から敵意剝き出しで睨みつける。そりゃあ彼女からすれば親の仇かもしれないのだから。これは壮絶な復讐劇が起こると期待して見ていたら意外な人物の存在が知らされ彼女の過去に何が起きたのかが、どんどん分からなくなってゆく。

 

そもそも西欧とは違って東欧はロマも多く価値観も入り乱れた土地柄だけに政治腐敗や犯罪組織による暴力沙汰も少なくない地域です。つまり彼女が推測していたような謀略はなくて、もっと根が深い問題が様々に折り重なっていたって感じです。よく20世紀には資本主義と共産主義の対立故に鉄のカーテンで東西が隔てられたという言説があったが実際の所、問題はもっと根深くて耶蘇教宗派対立が根底にあります。ムスリムとも交じり合うキリル文字スラヴ系ロシア正教の側と覇権主義的な価値観で虐殺を繰り返すローマより西のカトリック側。我々日本人は脱亜入欧でカトリック側を模倣し欧米的価値観に毒されているので西欧以外の歴史は粉飾され放題な歴史観を教育されます。つまり東欧に関しては意外と誤解だらけだったりします。それこそ中南米やアフリカやムスリムやアジア諸国をテロリスト扱いのヘイトポルノを信じるとセルビア人もトルコ人も虐殺魔扱い。ルーマニアもハンガリーもウクライナも汚職国家だが背景にある事情は西側で伝えられる以上に混沌としています。オブラートに包まない剥き出しの大衆の暴力は『ホワイトローズ』や『異端の鳥』等数多くの東欧映画で描かれているだけに欺瞞に満ちた西欧の価値観の文脈では見ない方が良い。お家騒動の復讐劇という西側娯楽にありがちな導入で引き込んで東欧の混沌の中に叩き落すって感じの内容です。