映画『今度は愛妻家』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

今度は愛妻家

 

 

セカチューより泣ける小作品

 

日本では公共の場所での正式な撮影許可がなかなか出ないからゲリラ撮影を決行する作品が少なくない。岩井組では当然のように許可なく車止めをして助監を生贄として警察に出頭させていた。そのひとりが若き日の行定氏。彼が監督として知名度を高めたのはクドカンと組んで在日を扱ったコメディ『GO』で、そのテイストは『JamFilms』でも続いた。ブルマの色を数える何ともバカバカしい話で笑わせてくれたものだ。それがいつの間にかセカチューでメロドラマのヒットメイカーになっていた。決まった作風に囚われず色々とやる監督。でも岩井さん自身があまり作品を撮らなくなった最近では少しずつ岩井組出身のテイストを出し始めた。前作では『スワローテイル』を真似たコミュニティーものに走り、今回は岩井俊二朗の名で小津作品にオマージュを捧げた『毛ぼうし』のテイストで始まり、後半は『花とアリス』の頃の透明感のある岩井テイストにそっくりな演出を見せてくれました。

 

今回のメロドラマは近年の行定作品の中では一番気に入りました。いかにも小規模なロケセットでの対話劇。それでもポップで『閉じる日』みたいな暗さない。豊悦と薬師丸というベテランの組み合わせの芝居と、それにピッタリな井上陽水の主題歌。メンバーからすれば、どんなに安いセットを使ってもポップになるだろう。対話劇の掛け合いの上手さでどんどん引き込み、ちゃんとケジメを付けてくれます。ダメ夫と彼と駆け引きする妻。妻が母親のようにさえ見えてしまう。恋人を家に呼んだ時に母を早く部屋から追い出したくてイラつく気分を思い出しました。それだけ身近さを感じさせるからこそ切なくなる。ただ、しつこいだけの泣かせに陥ると思いきや、主人公の心境の変化まで、ちゃんと描き込んでいます。3つ位、夫が泣いているシーンが連発するけど、それぞれの涙の意味は違う。ケジメに至る気持ちの変化を丁寧に追った結果こうなったのだろう。どちらにせよ私は自分がダメ人間やっている間に心を返せなくなってしまった人の事を思い出し後悔の涙が止まらなかった。