映画『ユキとニナ』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

ユキとニナ

 

 

どこへ帰ろうか

 

別居しそうな両親をつなぎ止めようとする娘の話。母は日本人で父はフランス人。夫婦の愛情は薄れ毎日ケンカばかりで距離をとるのが最良の策との両親の決定だった。親権は母に委ねられ、娘は住み慣れたパリから遠くはなれて母の故郷である日本へ行かねばならない。だが娘は行きたがらない。いかにも諏訪監督が現在置かれた所在なさを象徴するような設定です。まるでフランス人監督のようにフランスで撮り続け、フランスだけで高い評価を得る。やはり『Mother』で脚本賞を得ると同時に日本シナリオ協会とケンカした過去を引きずっているのだろうか。日本には正当な評価を下せる文化人がいないからフランスで撮るとでも言いたげだ。それでも本当は日本の風土が恋しいと。現場で役者に台詞を決めさせるという彼の方法は日本映画界では邪道とされた。だが少なくとも私をはじめとするドキュメンド畑を走った事のある映画人の立場から言わせてもらうと、彼の方法を否定する理由なんてない。シナリオ協会はドキュメントの文字起こしでさえ脚本と認めているのだから。作家が観客に最高の作品を届けるために最良の手段を探り様々な方法を模索して何が悪い?

 

今回は共同監督だからなのか諏訪監督の特色が実に上手いバランスで効いていました。後半の浮遊感があるファンタジーと家族を語る前半の重さ、それど隠し持った郷土愛。主人公が親友とその母と3人でディベートするシーンは『デュオ』を思い出させるいかにも諏訪節な演出。この主人公を演じた子役女優さんは、そのまま”しゃべり場”などに出演させられそう。このシーンは明らかに役者に設定だけ与えて台詞を模索させる諏訪スタイル演出。子供だからと侮るなかれ。感情に正直で筋も通っている。凛として真を突く。でも行動を起こせないで親友をイラつかせる。確かに実際に問題の渦中にいると下手な行動には出られません。その現実感の重さが後半の開放的な虚構へと流れる上で丁度良く効く。自由な芝居のナチュラル感は後半にもあるけれど、これまでの諏訪作品では見かけない開放感の中に語られている。今までの諏訪作品の中で最も心地よかった。