映画『ガリーボーイ』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

ガリーボーイ

 

 

潔白過ぎる底辺

日本でも底辺生まれで有名になったタレントが過去をぶっちゃけ過ぎて干されるなんて事案が起きる訳だが、どうもこのラッパーは狡猾なようです。ボンベイのスラム街から這い上がった有名ラッパーたるガーリーボーイのサクセスストーリーを映画化したノンフィクションのインド映画。元々インドはカースト制度で隔てられた階級社会だけに世界がネオリベ化する以前から格差社会は酷くてミラナイールも『サラームボンベイ』って傑作社会派でその惨状を訴えています。この主人公は一応は底辺の生まれだが堅実に大学に通いながらタクシー運転手の仕事を継ぎ医大生の恋人もいる。ただ何をするにも資本金がないので友人を頼ったりもする。そんな友人の中には車泥棒などの犯罪に手を染めている者もいるって訳だ。この主人公は大学の学際で初めてヒップホップに出会い、そこで名パフォーマンスを見せたラッパーとつるむようになり共に出場したコンテストや音楽動画で名声を高めてゆく。その一方で独占欲が強く暴力的な医大生の恋人とのラブコメも展開する訳だが、それに関しては中途半端過ぎてモテてるアピールにしか見えません。

 

この作品はボリウッド映画特有の歌って踊るスタイルの歌の部分をヒップホップにしてPVスタイルで見せるってやり方をしてる訳だが全く目新しさはありません。そもそも最近のヒンズー映画におけるダンスシーンはヒップホップは勿論あらゆるジャンルの音楽を取り入れているので、この手のスタイルの作品は腐るほどあります。そもそも古典的なインドミュージカルでも音楽センスがヒップホップと比べて古いかと聞かれれば、そうでもない。そもそもボリウッド娯楽は内容面でも音楽面でも常に最新最良を取り入れて来たので当然ながら今作より音楽センスが進んでる作品は最もメジャーなARラフマーン系をはじめとして腐るほどあります。この作品ではヒップホップという音楽ジャンル故に親に反対される逆境の家族ドラマとかも織り込んでいたが何ともわざとらしい。そりゃゴバディの『ペルシア猫を誰も知らない』のように戒律が厳しいムスリムの国での事なら納得できるがインドはもっと混沌としています。それこそ貧困層なら麻薬売買や児童買春などが当たり前に横行していたのがボンベイ下町の姿。今作に描かれる世界観はポリコレコンプラに配慮し過ぎて、やたらと無臭殺菌された現実と遊離したような清廉潔白感を出し過ぎています。まあPV感覚でファンが楽しむ分には充分だろうけど。