愛と誠〈2012年〉
昭和歌謡ミュージカル
少年マガジンにヤンキー系の伝統を生んだ昭和の有名な劇画から生まれた松竹の熱血系映画を角川資本で三池先輩がミュージカル風味にリメイク。とりあえず誰もが知るような有名歌謡が並んでいる訳だが、ジャンルとしてはフォークやアイドル歌謡やアニソンという割とダサめの選曲をあえてやる事でぶっ壊れ感を出して笑いにつなげてる感じ。その中では井筒の『パッチギ』でも効果的に使われた名曲"あの素晴らしい愛をもう一度"が印象に残りました。サビで「あの素晴らしい愛…」でメロディを止めてリフレインを聴かせるシュールな演出が妙に可愛い。それにしても今更、高度成長期の不良ドラマをリメイクすると時代錯誤感はパない事になっちゃってます。そもそもの構図がブルジョワお嬢様を助けたプロレタリア少年への恩返しみたいな感じで西洋的階級分断と不可視化が日本にも蔓延してしまった今となっては実感が湧きません。
この主人公の荒れた態度も、いつぞやのキムタクを思わせる感じで感情移入し辛い。それこそ反抗しても包摂してくれる社会があった世代の甘ったれた価値観に裏打ちされた世界観です。こんな横暴な奴はいくら腕っぷしが強くとも関りを避けられ見捨てられ、のたれ死ぬのが現代。強烈な愛憎が激しく鬩ぎ合う劇画の空気感を再現するには現代はあまりに冷めています。だから『理由なき反抗』のような合理的な方向へ向かわざるを得ない。つまり家族への愛憎って所に話を集約させてしまっています。それも悪くはないが劇画の時代にあった情熱を再現できない事で作品としてのボルテージは松竹版に比べると落ちます。トイレで悲しい女が絡んで来るホラー風味の演出であったりオッサン扱いされた裏番がキレて誠を殴り飛ばすコミカル演出だったり三池の得意技を相変わらずサービス精神全開で並べてはいる訳だが退屈はせずとも引き込まれはしなかった。ちなみに安藤サクラ演じるガム子のツンデレっぷりはキモかった。