映画『涙するまで生きる』の感想 | アキラの映画感想日記

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映画を通した社会批判

涙するまで、生きる

 

 

何処へ行っても異邦人

 

アルジェリアの独立戦争を背景にしたカミュのアイデンティティを語ったノベルの映画化といえば最近じゃイタリアの新鋭ジャンニアメリオが『最初の人間』って超王道の文芸作品を撮っている訳だが、それに比べるとフランス産の今作はまるでジョンフォードの西部劇やコーエン兄弟の巻きこまれ型ノワールのようなシンプルな構造を持っている。ただ台詞が少なくシンプルである事でテーマ的により鋭く抉ってくれた。かつてはムッソリーニ政権相手に共に闘った戦友をテロリストとして卑劣なやり方で駆除するフランス側の欺瞞と葛藤。本質的な残酷さは『いのちの戦場』以上に適切でニューカレドニア制圧を描いた『裏切りの戦場』以上に矛盾を突き付ける。その中で『デイズオブグローリー』のように二つのアイデンティティに苦悩する主人公。

 

『永遠と一日』で難民の少年は"クセニティス"の意味を「何処へ行っても余所者」と語るが正にカミュ自身が最もその言葉に当てはまる"異邦人"だったのだろう。アルジェリアで教師をしている元フランス軍将校が家族を守る為に処刑される事を選んだ囚人を護送するハメになるという物語なのだが、そこからアルジェリア生まれのフランス人というアイデンティティの問題が滲み出す。「フランスではアラブ人と呼ばれアルジェリアではフランス人と呼ばれる」この男に帰るべき故郷はない。あまりにもシンプルで簡潔な台詞が苦悩の深さを適切に印象付けてくれた。