今にして思う唐十郎…… | 還暦フリーランサーのおしゃべり処

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元競馬専門紙記者/旧ブログ~「オヤジの競馬倶楽部」~
(ヘイトスピーチはご勘弁)

 

  紅テントで受けた衝撃

 昭和30年代の生まれで演劇好き、という人間にしては、私の唐十郎デビューは遅かった。平成9年秋ですから、遅過ぎた、と言ってもいいくらい。

 

 無論……いや何故か唐十郎の名前は知ってましたし、「状況劇場」であるとか〝紅テント〟の名称も耳にはしてました。でも、自分の中で「競馬が一番」になった時代と重なったからなのか、とりあえず寺山が先になったからなのか、当時は唐にまつわるモノに、どこかピンとこなかった。筒井康隆の戯曲だとか、ちょっとしたお芝居やなんかも観に行っていたのに……。まだ機が熟してなかったんですかねえ。

 

 とにかく、茨城に越してきて、まだ日が浅く、暮らしそのものに慣れていない頃。住んでいるところからは結構離れている県庁所在地に〝水戸芸術館〟なるものがあることを知りました。秋には一人の作家にスポットをあてた「現代日本戯曲大系」という企画公演があって、いくつかの劇団(3団体)によって、独自の演出で行われる、という。

 この年は寺山修司が対象になっていて、彼の作品はそれまでも観ていたのですが、この時は彼にゆかりの演劇人が、新たに設立した劇団による公演なども予定されていて、よくわからないなりに、3公演分のチケットを入手して参加する、という行動パターンを取ったのです。

 

 そのトップバッターとして、最初の週に登場したのが何を隠そう劇団唐組。演目は傑作『ジャガーの眼』でした。

 今更ながら、これは寺山修司の作品ではなく、唐十郎作品。あとで知ったことですが、寺山が亡くなった時に、唐が追悼の意味を込めて書き下ろした作品でした。

 これを観たことが、後の私の人生を豊かにすることにつながった、と思ってます。

 

 紅テント内の前から4列目くらいで観ましたが、始まった途端に真正面からバケツで水を思いっ切りぶっかけられたような……それでも身動きができないほどの……とにかくそれまで経験したことがないほどのショックがありました。

 

 あとはもう、「今、この場に居られることの幸せ」とでもいうんですかねえ。公演中、周囲のお客さんは視界から消え、ストーリーもそっちのけに、役者さん達の躍動する姿に魅入られていました。あっというまの2時間ちょい。その場をすぐには離れたくなかった……。帰宅後も呆然としていて、でも目が冴えて寝られませんでしたからねえ。

 

 20歳の前半、競馬を知る前にこっちを先に観ていたら……なんてことまでは当時も思いませんでしたが、それから年に1度は紅テントに足を運ぶことになってしまいました。

(こちらはその時の『ジャガーの眼』のパンフレットです)

 

  たまに読み返す文芸評論本

 

 そしてハマり出したらマニアックなのは性質です。ネットですぐ手に入る時代でもなかったのに、こんな書籍にまで手を出して〝勉強〟することに。

 

 右は『ジャガーの眼』のシナリオ集。NHKの番組で「状況劇場」が演ったバージョンの映像も手元にあります。

 

 で、左は文芸評論家である堀切直人さんの、唐十郎への愛に溢れた作家論集。ここでは「状況劇場」から「唐組」へ、そして将来の「劇団唐組」について書かれていますが、この本の中で最も衝撃があったのは、唐が作品を提供していた伝説の劇団『第七病棟』についての考察が書かれていたこと。何度読み返したことか……。

 ━━ま、その話はここで扱うのはヤメておきましょう。

 

  寺山と同じ日に

 

 「劇団唐組」ではこのところ新作を演る機会が減っていたので、ちょっと座長の体調を心配してはいたのですが、決して高齢のせいでどこかを長く患っていた、というのではなく、あくまで〝急性硬膜下血腫〟、つまり〝急死〟には違いなかったそうです。やっぱり惜しまれる……。

 

 とにもかくにも、ビートルズに競馬、ジーザスクライストスーパースターときて、その後の人生に強烈な影響を与えてくれたのが遅ればせながらの唐十郎作品群でした。

 

 亡くなって1カ月以上過ぎてからのアップになってしまった。軽々しくご冥福を……なんてことを言える対象ではなく、でも、まだ1カ月ほどしか経っていないのか……とも思って、大きな穴がポッカリと開いたままだなあ、と思います。

 私ですらそうなんだから、劇団唐組の皆さんの心中、察するに余りがあります。そもそも劇団自体もどうなっていくのか……。

 またDMくだされば、とんで行きますので。

 

 それにしても、寺山修司が逝ったのが1983年の5月4日。唐が逝ったのが2024年の5月4日……。

 生前、仲が悪いような語られ方をしてたように思いますが、同じ日に逝ってしまうとは……。確かにアングラ演劇の旗手としてライバルではあったでしょうけど、唐の『ジャガーの眼』を観る限り、仲が悪かった、とも思いづらい。

 またどこかで扱いたいなあ……。

 

 

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