とある日の事です。


「お刺身、買って来て」


買い物に出ようとしていた娘さんに梅さんが声をかけました。


「刺身、食べたいの?」

「夕飯の献立決めたのに」と娘さんが怪訝な顔で答えます。


「お刺身は、お昼に食べるのよ」と梅さん。


「お昼に」

「優雅ね」と娘さん。


「あんたも好きな物を食べれば良いじゃない」と梅さん。


何とも、女王様的な発言です。


梅さんは娘さんが仕事で居ないと、お昼にお刺身を肴にアルコール類を飲んでいる様です。


「お刺身高いからね」と娘さん。


「高いったって知れてるでしょ」

「みっともない事ばかり言わないで」と梅さん。


梅さんは人一倍見栄っぱりです。

そして。

物価感覚が半世紀前辺りで止まっています。

その上。

値段を見ずに買い物をします。

豪快なのか。

無頓着なのか。


娘さんは仕方無いので、お刺身を買って来ました。


と。


「もっと沢山入ったの無かったの」と梅さん。


「足りないの」

「私は要らないよ」と娘さん。


「あら、食べないの」と梅さん。


そして。


いそいそとワインをグラスにそそぎ、お刺身を食べていました。


「お母さん」

「しあわせでしょ」

「羨ましいわ」と娘さん。


「しあわせだわ」としあわせそうに微笑む梅さん。


梅さんも、かつては家計を管理していたのです。

なのに。

食費の予算など何処吹く風です。


複雑な思いで梅さんを見つめる娘さんでした。


トホホ。

とある日の事にございます。


その日はとても暑い日にございました。


「あら、涼しい」

「外は暑いわよ」

「あなたは良いわね」

「涼しい所に居られて」


高齢の女性のお客様が入って来るなりおっしゃいました。

何処か言葉の端々にトゲを感じる話し方をされる方にございました。


「今日は暑いですね」

「暑い中、ありがとうございます」


お豆は努めてそつなく答えました。


「でも冷房に当たりすぎると冷房病になるわよ」とお客様。


「ありがとうございます」

「冷えには気を付けてます」


お豆は話を合わせて答えました。


と。


「あら、まだ大丈夫でしょ」

「私より若いから」とお客様。


お豆はこれにはあえて答えず、業務を進めました。


「○○円でございます」とお豆。


「あらぁ!高くなったわね」

「値上がりしたの」とお客様。


「申し訳ございません」

「4月に少し値上がりしました」

「色々と原材料が高くなった様です」とお豆。


「えっ」

「そうなの」

「色々って、何が高くなってるの」とお客様。


「洗剤等、原材料と聞いております」とお豆。


「また、原材料とか言って」

「儲けようとしてるんでしょ」とお客様。


「申し訳ございません」

「値段設定の詳しい事は、私の預かり知る所ではございませんのでお答え致しかねます」とお豆。


「あっ、そう」と不服そうにお客様。


「こんなに、来る度に値上がりされたら」

「もう、気軽にクリーニングなんて出せないわね」


トゲトゲの捨て台詞を残し、お客様は帰って行かれました。


このお方。

レジのご来店履歴に寄りますと。

数年振りのご来店でした。

しかも、その前(前々回)も更に数年前でした。

つまり、数年に1度しかご利用されていない方なのです。


『来る度に値上がり』していても致し方無いのかもしれません。


トゲトゲの攻撃的な方を、スマートにスルッとかわせる会話術を身に付けたいものです。


数日後に受け取りで来店されます。


ちょぴり気が重いお豆でございました。


トホホ。

とある日の事です。


朝。

娘さんが洗面所へ行くと。

洗濯かごに梅さんの失禁パンツがキレイに畳んで2枚入っていました。


娘さんはいつも夜、洗濯をしますので。

気にすることも無くそのまま。

仕事へ行きました。


で。


その日の夜。


洗濯かごの中のパンツの上に、その日の洗濯物が積まれ。

娘さんは上から順に洗濯物を洗濯機に入れて行きました。


そして。


件のパンツを洗濯機に入れようと手にしました。


《湿っぽい》&《尿臭い》


「お母さん、これ臭いよ」と娘さん。


「汚れたから洗うのよ」

「臭くないわよ」

「失礼ね」とシラ➰っと梅さん。


「このまま洗濯機に入れたらみんな臭くなるから」

「予洗いしといてよ」と娘さん。


「予洗いって何?」と梅さん。


少し前まで。

梅さんはおもらしパンツは自分で洗っていました。


が。


いつの間にか。

忘れている様です。

臭いもわからなくなっている様です。

ましてや《臭いが他の洗濯物に移る》など、考えも及ばないのでしょう。


「自分のなんだから、予洗いしてよ」と切れ気味に娘さん。


梅さんはしぶしぶの様子で洗っていました。


朝。

パンツがキレイに畳まれていたのは。濡れているのを隠していたのでしょうか。


『タンスの中に隠すよりマシ』とおおらかに受け止めなければならないのでしょうが。


娘さんには苛立ちしかありませんでした。


《まだまだ序の口》なのでしょう。

底無し沼に足を取られた気分で。

溺れず、生還出来るのか。

不安でしかありません。


貧乏くじを引かされた様な思いがしてならない娘さんでした。


トホホ。