大阪芸大発 著名人教員の紙上講義】キャラクター造形学科教授 永井豪さん
2010.01.06 大阪朝刊 20頁 大総3 写有 (全1,137字) 
◆自分らしい漫画描こう

 今日みなさんに言いたいことは、自分らしい漫画を描いてほしい、ということです。プロになると、編集者と価値観が異なるときが出てきます。そんなとき、自分らしいもの、原点をつかんでいれば、どこまで妥協していいか、おのずと答えは出てくるはずです。

 では、自分らしい作品とは何か。簡単に言えば、自然と出てくるものです。個々のつらさや悲しさ、喜びが作品に表れていればいい。それぞれに違って当たり前です。漫画には“絶対”というものはない。いわば、勝ち残ったもの(表現)がセオリーになるのです。

 《表現世界に必要なものは“自分らしさ”だと強調する永井豪さん。その信念は、永井さんの漫画世界にも投影されている。「ハレンチ学園」「マジンガーZ」「キューティーハニー」…。その幅広い作品群について、永井さんはこう話す。「作品は、自身の感性の日記である」》

 みなさんの作品を眺めていると、個々の気分や境遇までもが見えてきます。私の場合も作品の出発は“ひらめき”です。それはシーンだったり、キャラクターだったりさまざまですが、イメージが次第にふくらみ、自身の気分や環境が合わさった物語が生まれてくるのです。

 バカバカしい解放感にあふれた「ハレンチ学園」、高度成長期のエネルギーに満ちた「マジンガーZ」…。これらの漫画世界は、制作時の私の気分であり、時代の流れでもあった。漫画には技術的なもの以外に、時流を自分なりにつかむ力が重要なのです。

 《この日は、学生約15人の発表する漫画作品に対し、永井さんが指導していく内容。「主人公を魅力的に」「背景の奥行きを丁寧に」など永井さんの助言に対し、学生たちも漫画のエッセンスを読み取ろうと、真剣な表情だ》

 この世代の評価は非常に難しい。なぜなら、急に“化ける”人が出てくるからです。それは、先天的なもの以外に、本人の取り組み次第でどうにでもなるといえます。化ける人は、どこかで自分の原点を発見するのでしょう。

 今はみなさん全員に可能性があるのです。私も学生時代、生きている証しを残そうとの強い意志から漫画家になった。作品には手塚治虫さんや映画、スポーツ、大衆心理など、自分に影響を与えたものすべてが入っており、自分そのものと言ってもいい。

 みなさんも、もっと漫画に打ち込むことです。目標に向かい、自分の原点をしっかり持ちながら、邁進(まいしん)していってください。

 (構成・福本剛)

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 【プロフィル】永井豪

 ながい・ごう 石川県出身。昭和42年に「目明しポリ吉」で漫画家デビュー。人間や社会に対する斬新な表現手法で漫画界に新風を注ぎ込んだ。平成17年4月から大阪芸大キャラクター造形学科教授。64歳。

産経新聞社

大阪芸大発 著名人教員の紙上講義】(32)音楽学科教授 水田堯さん
2009.11.29 大阪朝刊 23頁 大阪総合 写有 (全1,890字) 
◆共生伝えた「交響曲」

 平成7年1月1日午後7時半から放送されたNHKスペシャル(Nスペ)「地球シンフォニー」を、プロデューサーとして制作した。これをやったから、大阪芸大で授業をやろうと思ったくらいの番組だ。

 テーマは「共生」。(世界の人々が)共に生きるため、非力なメディアに何ができるかトライしようという企画だった。3時間の生放送が終わったあと、(独立系テレビ番組制作会社)テレビマンユニオンの初代社長、萩元晴彦さんから「水田さんたちがこの番組でやったことをやりたいから、私は放送の世界に入ったようなものだ」という、毛筆の感動的なファクスをいただいた。その制作の舞台裏を、みなさんに伝えたい。

 出発点は一本の電話だった。音楽祭取材のため英国に滞在していたとき、Nスペのスタッフから唐突に、電話がかかってきた。「来年の正月に大きな特番を考えている。その準備をしている段階で水田さんの企画に出合った。あすにも東京に帰って来てほしい」との内容だった。

 僕が提案していたのは、戦争で市民が無差別に殺された、東京とドレスデン(ドイツ)、コベントリー(英国)-の3都市を生放送で結び、コンサートで平和を歌い上げるイベント。これを、Nスペスタッフが拾い上げた。

 すぐに東京に戻り、企画書作成にかかった。基本テーマを共生とし、元日の夜に世界10カ所を衛星中継で結び、世界の音で一つの交響曲(シンフォニー)を奏でる案を練り上げた。

 《番組で結んだのは、ダカール(セネガル)▽ハノイ(ベトナム)▽香港▽ニューヨーク(米国)▽コネティカット(同)▽広島▽サンクトペテルブルク(ロシア)▽アッシジ(イタリア)▽ボストン(米国)-の9都市と、番組の拠点となったNHK101スタジオ(東京)。水田さんはその都市名を板書。教室の照明が落ち「地球シンフォニー」の冒頭場面が流れ始めた。内戦のボスニアなど当時の世界を象徴する映像に続いて、番組メーンキャスターの世界的指揮者、小澤征爾さんが登場。「音が伝わるのは、僕とあなたの間に空気があるから。今この瞬間、共に生きている、その共生感が(音によって)出てくるんじゃないかなあ」。約10分間、ビデオが流されたあと講義再開》

 番組キャスターをなぜ小澤さんにお願いしたのか。番組は、キャスターが世界のオピニオンリーダーたちと話をしながらの進行を考えていた。世界のリーダーたちに名前を言って、すぐに分かってもらえる人。残念ながら、当時の日本には小澤さんしかいなかった。

 出演をお願いするにあたって、小澤さんが所属するニューヨークの事務所に手紙を送ると、2つの疑問が投げ返された。「番組は君たちの夢物語ではないか。NHKが総力を挙げてやる気があるのか」「こんな大規模な番組を(放送まで)残り6カ月でできるのか」

 これに対し、僕たちの本気度を見てもらおうと、「1カ月ください」と返答。世界中のNHKの総支局と協力し、出演を想定していた世界のオピニオンリーダーたち-ローマ法王やマザー・テレサ、スピルバーグらと交渉を始めた。ところが、約束の1カ月を過ぎても交渉は進展せず行き詰まった。ここであきらめることも選択肢だったが、真剣に努力したのだから、正直に現状を伝えようと、再び手紙を書いた。これが的中した。

 《番組の続きが教室に流される。101スタジオと世界各地を結ぶ映像が次々登場。被爆地・広島の中継では元日の冴えた空気の中、原爆ドームが浮かび上がり、ハノイでは防空壕(ごう)でピアノを練習しアジア人として初めてショパンコンクールで優勝したピアニストが、演奏で平和を訴えた。そしてコネティカットでは、世界的バイオリニストのアイザック・スターン氏が「地球はいろいろな問題を抱えているが、音楽は何世紀にもわたって存在し続けている。われわれを結びつける一番パワフルな力だ」と力強くメッセージを放った》

 僕の大好きな言葉「live and let live(生きる、そして、生かせる)」。これは、共生と同じ意味だ。

 (構成・松田則章)

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 「大阪芸大発 著名人教員の紙上講義」は一時休止し、来年1月から再開します。

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 【プロフィル】水田堯

 (みずた・たかし) 元NHKチーフ・プロデューサー。昭和17年、東京生まれ。東京芸大大学院音楽研究科修了。「N響アワー」「ビートルズとその周辺」「ときめき夢サウンド」など多くの音楽番組を担当。大阪芸大での「地球シンフォニー」の講義は3回連続で予定しており、今回が最初の講義。

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大阪芸大発 著名人教員の紙上講義】(31)映像学科教授 西岡琢也さん
2009.11.22 大阪朝刊 19頁 大阪総合 写有 (全1,492字) 
◆共感持てるテーマを

 父親が脚本家で息子がどうして同じ道を選ぶのか。

 父親に「文才がない」と指摘される部分と、父親が銀賞だったコンクールに優勝して、「やっぱりおれの息子だ」と褒めるシーンだけで、あとは主人公である息子の恋愛話が続くね。親子の確執を描く割に、父と息子のシーンが2つしかないのは物足りない。

 人物造形が弱い。父親はどういう作品を書くの? 次までに考えてきて。母親は図書館の司書か。父親が調べ物をしに来て知り合った。それはありだね。

 細かいことだが、父親がロミオとジュリエットを喜劇仕立てにして入賞し、息子も同じテーマで金賞を取ることはあり得ない。主催者は盗作を警戒して過去の作品を必ず調べるから。

 映画やドラマのリアリティーというのは、本当のことを書くのではなく、本当にありそうなことを書くんだ。うそでもいいから、こういう人いるよね、こういうことあるよね、と見た人に思わせることが大事だ。

 《2年生を対象とした「シナリオI」の授業では、200字詰めで50枚のシナリオが課題となる。この日は、途中まで書かれたシナリオを一人ずつ指導していく。その中で優れた作品の何本かは、3年次に映像化される。西岡さんは「映像にすると文章が具体化され、欠点もよく分かる」という》

 小説家と違って、2代続けて脚本家ってあまりいない。うちの子供も選んでいないし。

 父親は昔、脚本家を目指したが挫折して、今は別の仕事をしていて、息子が脚本の道を選ぶっていうのはどうだい。だめか。

 君は将来、働きながら脚本の勉強したいのか。シナリオ講座には、そんな二足のわらじをはいている人がたくさんいるけれど、10年かかって芽が出なかったらあきらめた方がいい。早く世に出られないのは、求められていないと思った方がいい。

 《西岡さんは、映画やテレビドラマは不特定多数に向けて送り出すもの。社会に向かってモノをいうのだから、知らない人にも共感を持ってもらうような題材、表現方法を選ばなければならないという。

 だが、今の学生は社会への興味が足りないと指摘する。「興味は自分の周りのことばかり。同窓会ネタが多い。新しい世界との出合いがない。出てくる主人公は引っ込み思案。コンビニでアルバイトをして、父親は普通の会社員、母親はスーパーでパートとすべて紋切り型。これではドラマにならない」

 また、芸術に接する機会が少ないので、もっと学外へ出て演劇や映画、コンサートなどに触れないとだめだと呼びかけた。

 さらに、シナリオがうまくなるのに近道はない。書き方や形は教えられても、自分の内面を豊かにして、あとは本数を書くしかないと強調した》

 脚本家の「脚」は足のことだといわれます。シナリオを書いている時間より、情報や資料を集める仕込みの時間が楽しいし大切です。舞台となる場所に行ったり人に会ったりして、その場の空気を感じてほしい。頭の中に映像を持つことが重要です。

 スタッフや俳優をその気にさせる舞台や雰囲気をつくり、映像が浮かぶシナリオが優れたシナリオなのです。

 (構成・慶田久幸)

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 【プロフィル】西岡琢也(にしおか・たくや)

 脚本家、日本シナリオ作家協会理事長。昭和31年生まれ。関西大法学部卒。在学中の54年、「暴行魔真珠責め」(新東宝)でデビュー。56年「ガキ帝国」(ATG)で注目を集める。監督はいずれも井筒和幸氏。その後、数多くの映画、テレビドラマの脚本を手がける。現在公開中の「沈まぬ太陽」(角川映画・東宝)の脚本も担当した。平成17年から大阪芸大映像学科教授。

 撮影・鳥越瑞絵

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