大阪芸大発 著名人教員の紙上講義】(31)映像学科教授 西岡琢也さん
2009.11.22 大阪朝刊 19頁 大阪総合 写有 (全1,492字) 
◆共感持てるテーマを

 父親が脚本家で息子がどうして同じ道を選ぶのか。

 父親に「文才がない」と指摘される部分と、父親が銀賞だったコンクールに優勝して、「やっぱりおれの息子だ」と褒めるシーンだけで、あとは主人公である息子の恋愛話が続くね。親子の確執を描く割に、父と息子のシーンが2つしかないのは物足りない。

 人物造形が弱い。父親はどういう作品を書くの? 次までに考えてきて。母親は図書館の司書か。父親が調べ物をしに来て知り合った。それはありだね。

 細かいことだが、父親がロミオとジュリエットを喜劇仕立てにして入賞し、息子も同じテーマで金賞を取ることはあり得ない。主催者は盗作を警戒して過去の作品を必ず調べるから。

 映画やドラマのリアリティーというのは、本当のことを書くのではなく、本当にありそうなことを書くんだ。うそでもいいから、こういう人いるよね、こういうことあるよね、と見た人に思わせることが大事だ。

 《2年生を対象とした「シナリオI」の授業では、200字詰めで50枚のシナリオが課題となる。この日は、途中まで書かれたシナリオを一人ずつ指導していく。その中で優れた作品の何本かは、3年次に映像化される。西岡さんは「映像にすると文章が具体化され、欠点もよく分かる」という》

 小説家と違って、2代続けて脚本家ってあまりいない。うちの子供も選んでいないし。

 父親は昔、脚本家を目指したが挫折して、今は別の仕事をしていて、息子が脚本の道を選ぶっていうのはどうだい。だめか。

 君は将来、働きながら脚本の勉強したいのか。シナリオ講座には、そんな二足のわらじをはいている人がたくさんいるけれど、10年かかって芽が出なかったらあきらめた方がいい。早く世に出られないのは、求められていないと思った方がいい。

 《西岡さんは、映画やテレビドラマは不特定多数に向けて送り出すもの。社会に向かってモノをいうのだから、知らない人にも共感を持ってもらうような題材、表現方法を選ばなければならないという。

 だが、今の学生は社会への興味が足りないと指摘する。「興味は自分の周りのことばかり。同窓会ネタが多い。新しい世界との出合いがない。出てくる主人公は引っ込み思案。コンビニでアルバイトをして、父親は普通の会社員、母親はスーパーでパートとすべて紋切り型。これではドラマにならない」

 また、芸術に接する機会が少ないので、もっと学外へ出て演劇や映画、コンサートなどに触れないとだめだと呼びかけた。

 さらに、シナリオがうまくなるのに近道はない。書き方や形は教えられても、自分の内面を豊かにして、あとは本数を書くしかないと強調した》

 脚本家の「脚」は足のことだといわれます。シナリオを書いている時間より、情報や資料を集める仕込みの時間が楽しいし大切です。舞台となる場所に行ったり人に会ったりして、その場の空気を感じてほしい。頭の中に映像を持つことが重要です。

 スタッフや俳優をその気にさせる舞台や雰囲気をつくり、映像が浮かぶシナリオが優れたシナリオなのです。

 (構成・慶田久幸)

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 【プロフィル】西岡琢也(にしおか・たくや)

 脚本家、日本シナリオ作家協会理事長。昭和31年生まれ。関西大法学部卒。在学中の54年、「暴行魔真珠責め」(新東宝)でデビュー。56年「ガキ帝国」(ATG)で注目を集める。監督はいずれも井筒和幸氏。その後、数多くの映画、テレビドラマの脚本を手がける。現在公開中の「沈まぬ太陽」(角川映画・東宝)の脚本も担当した。平成17年から大阪芸大映像学科教授。

 撮影・鳥越瑞絵

産経新聞社

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