ばばとお花見。

桜の下枝を引き寄せて触らせると、やはらかいいい匂いがすると云ふ。見えるのかなと聞くと見えないけれど、酔いつぶれるほどだ、アリガタイと幾度も呟く。花に酔へは去年の今年、故郷の山を遠方に、泡立ち飛花落花に桜花は光の絲を曳く。蜜吸い鳥が大枝を躁ぎ飛び交う。束の間の花の浄土が万朶と頭上に広がって、青の空、去年は点滴の管に繋がれていたばーさんが、今年は車椅子で花の下に戻って来た。生命(いのち)って不思議だね。一年を飛び越えて二年ぶりにははそはの母の歌、かって軍国少女の ♪青葉茂れる桜井の、を歌ってもらった。

 

倉石智證

青の螺髪。

蟻の字。

/門柱に寄りしタンポポそのまゝに

/まだかよと春を待つをの屈み見る

/トリセツを開いて閉じて芽掻き時季

/薔薇芽ぐむ痛いと云へば生(い)きのこと

/カルペディエム鍬の柄掴む畝立てる

「一日を摘め」「seize the day」

(その日をつかめ/この日をつかめ)

/春雨や瓦濡らしてゆく音の

/スズナ臺立てゝ来て風に鳴るや

/字を書けば春の仕業やばーさんの紙をはみ出す蟻の字になる

/ばあさんの頭(つむ)を取り巻く賢(かしこ)雲

ぐるり廻ればすぐ眠くなる

/チューリップの披く教える時分時

/ムスカリの青の螺髪(らほつ)の経を誦む

/ムスカリの経誦む青の螺髪かな

 

倉石智證

春を勤しむ。

/もぐらもぐゲレンデの下春でぶん

/春が来てリフトの翳のものしずか

/ちょろちょろと岩を濡らして春の水

/コブ斜面撥ねられてこそ青春賦

/チューリップ花の四時を棲まはせて

/桃の花脚立に上る農夫たち

/タンポポの確かにポポの火事ですよ

/ダンディライオン陽のかうかうと当たりけり

/ジャガイモの春を勤しむ芽吹きかな

/春ですね、友達、仲間、うれしいなぁ

/泌尿器になりたる気配種袋

/日曜日のプーチンはどこにゐるんだろう教誨かな

/蕗っ葉を剥くばばの手に香り立つ

/紫木蓮の蜜吸われをる苞割られ

/日永なるバナナ窓辺に追熟す

 

倉石智證