花火がドンと上がった

あっちの方に人がゐるらしい

花火玉を守っているのだ

川が煌めき立った

宙が蒼く冴えた

あっちの方に人がゐて

真っ暗闇の下

黙って何かを守ってゐる

こっちは夕飯の支度がいそがしく

手元もさまざまに賑やかだ

なにかを伝えなくてはいけないと思ふのだが

どうも静かな暗がりばかりが間に在って

畑の作物や果樹なども深としてゐる

眼が動物のやうに炯々と燁る

休戦協定だなんて

獣臭いな

暗闇のあちらの遠い距離を窺がう

堂々巡りだ

とうとうどうしてもと云はんばかりに

どうか無事であって欲しいと

花火がドンと上がった

 

倉石智證

 

あそこには二輪艸が咲いてゐたが監視人がすぐ傍の小屋に屯していた。

どこに行くんだとすぐに聞いて来る。

目深く被っていた帽子を少し上げて、

ギフ蝶がね谷川を掠めてゆく、

と伝える。

眠ってゐた蛇が微かに目覚める。

シダの類が膝まで攻め上がって来て

山菜を折る音がポキンポキンと聞こえてくる。

おまへさんはそんなに奥まで入って行っちゃあいけないよ。

瀬音が聞こえなくなる辺り、

もう帰って来れなくなるかもしれない。

ギフ蝶も深い森もみんな人をだまそうとして

気配が、

蛇がずるりと太い枝を這ってゆく。

 

倉石智證

幣(ぬさ)廻し申す。

苗の定植。

幣を廻し申した/幣を家々に村の道々に廻し申した/長い綱に幣がひらひらして/病気や悪いものが入って来ないやうにと/道々に、家々にお願い申す/結界が結ぼほれて/すべてが過不足なく花の咲くやうに/成就されますやうにと/足を踏み鳴らすほどでもない/村の鎮守のお祭りで/平和と豊作を祈るんだね。

野菜の苗を買ってきて/一晩を家居の中に置いておいて/けふは定植の日になる/茄子、胡瓜、トマトに南瓜/いい子に育ってね/支柱を打ち立てて棚を作る/どうかなうまく上手に育つかな楽しみだね/風も出て来た。

幣うち廻す/ひとりひとりと一つ一つの家々にいいことがありますやうにと/神々に祈ります/すると畑地につむじ風が立って/ああ、なんて云ふことでせう/しずしずと雨が降り出したのです。

 

倉石智證