あそこには二輪艸が咲いてゐたが監視人がすぐ傍の小屋に屯していた。
どこに行くんだとすぐに聞いて来る。
目深く被っていた帽子を少し上げて、
ギフ蝶がね谷川を掠めてゆく、
と伝える。
眠ってゐた蛇が微かに目覚める。
シダの類が膝まで攻め上がって来て
山菜を折る音がポキンポキンと聞こえてくる。
おまへさんはそんなに奥まで入って行っちゃあいけないよ。
瀬音が聞こえなくなる辺り、
もう帰って来れなくなるかもしれない。
ギフ蝶も深い森もみんな人をだまそうとして
気配が、
蛇がずるりと太い枝を這ってゆく。
倉石智證


