さみしくてたうたう暗証番号を入れたりするのです

すると注文の多い料理店

見しらぬ動物が親し気に現れて

鏡の中でいろいろな仕草をして見せます

ずいぶん長いこと用もないのに畑をうろうろしてましたよ

どうもお節介な気があるやうですな

花ならば花

ひとつひとつに立ち止まり

お元気、とか、久しぶりだね、

とか声を掛けています

 

見ず知らずのあなたはそうかうしているうちに

だんだんやきもきと、我慢しきれなくなるのです

 

見知らぬ動物は濡れた眼をねむさうに

閉じたり開いたりして

「お召し上がり物はなんですか」、と聞きました

暗証番号を入れさえすれば注文の多い料理店

でも昔でも、今でも

ソルト、とオイルと来たら

親し気がアブナイ

気を付けませんとね

 

倉石智證

ガクモシナルナクンバ。

花腐し。

母の日。

/茉莉花(まつりか)や祭り神輿の遠ざかる

/アカサタナ字面は何処へテーブルへはみ出してゆく蟻の行列

「学若無成死不還」ガクモシナルナクンバシストモカエラズ

「人間到處有青山」ジンカンイタルトコロニセイザンアリ

を不意に憶い出した。

ば様は字を書くことに夢中だ。

ありったけの知性は何処へ行っちまったのか。

ぼくなんかもうまるっきり間に合わんなぁ。

/花殻摘み頭を垂れて西を向く

花は熱心だ。

あんなに色鮮やかに光の粒子を盛んに集めていたものを、

蕊を残して、腐してゆく。

花柄を摘む。

花の宇宙は不思議だ。

植栽の下に落とされた花片も、やはらかくやがて色を喪ひ、

土の一部へと還ってゆくのだらう。

花の美しいはない、と云ふけれど、

花はただそこに在るに過ぎないけれど、有情である。

人間の場合も少し複雑で、わたしは今朝花柄を足元に落とし、

少し頭を垂れる。

/母の日や娘から来るラブレター

/とーさんは道にはみ出す梅が枝、

梯子に上りチョキンチョキンす

 

倉石智證

落花生、枝豆の種播き。

カボチャの移植。

梅捥ぎ。

アルデンテ。

/梅捥ぎや遠き空なとおっかさん

/梅捥ぎやついに梯子のひととなり

/梅捥ぎや指から零れ靴の中

/つまらなきばばの抜けたる梅捥ぐや

/ばーさんの抜けて梅捥ぐつまんない

今年はついに酸っぱ顔のばーさんを畑に連れてこれなかった。

/中梅(ちゅううめ)は小梅の隣り待つをのみ

/可愛ゆくて昔ばかりは小梅ちゃん

/苜蓿(うまごやし)むかし隣りのさっちゃんと

/石垣の上に咲きたるポピーかな

/アルデンテ春の野菜をスパゲティ

畑の採れたてのアスパラも。

/コンフリー野に食べられると云ふものゝ

/ナヨフジクサ名前通りと云ふわけに

/豆播いてカラスとわたしコンクラーベ

/露草や紫偲ぶ忍ぶれど

/サツキ咲く庭一隅の五月かな

 

倉石智證