涸沢にモルゲンロートを。
眼前に天蓋に包まれた宇宙を、大宇宙を感じるのだ。5時30分ころになるとまず吊り尾根、穂高連山辺りが紅く浮き立って来た。みるみる奥穂の小屋から涸沢、涸沢槍、北穂へと陽の赤みが移って来る。壮大な原始のモルゲンロートである。ザイデングラートと北穂の急傾に取り付いてゐるヘッドランプの灯りが地のお星さまのように点滅する。或る人は膝に毛布を巻いて、夜中の3時ころからここのテラスに天空を眺めていたとコーヒーを片手にする。少しずつ人類が活発に動き始めているかのやうだ。テラスがようやく明るんでくると、人の声が賑い、待ち望む奇跡に人々の視線はみな一斉に天蓋へと引き寄せられてゆく。みなここまで息せき切って登り詰めて来た旅人たちはようやく安堵と驚嘆の地を得て、見知らぬ人たちにさへ祝福を捧げる。何百万年もの前の造山活動に、氷河し、削られてモレーンし、水が流れ、神の意図するところは全く分からないが、ただ謙虚な心持に、讃迎し端倪するばかりになるのだ。
此の日名残りを惜しみながら下山の途に就く。
途中の石畳のコースからは大キレット終点の南岳と、
それに続く横尾尾根、右俣カールが眼前した。
倉石智證





















