放棄地の梅の古木と甲斐駒ヶ岳と。
冬の背(そびら)を追いかけて行くと山の麓に着いて田圃や村々の上に甲斐駒ヶ岳が圧しかかるやうに山景してゐる場所が在る。そこがわたしのサンクチュアリ。きょう日は小春日和の中に辺り一面が秘密めかしてゐる。山塊が白銀のままに景色の中に黙(もだ)し、そこに一本だけの梅の古木が佇んでゐる。今まさに満開の盛りと大枝を時にゆさゆさしわたくしに挨拶ごときをするかのやうだ。白州、蕪村翁の如くわたくしは毎年この丘野辺に登って来る。丘野辺なんぞかく愛(かな)しき。時に拱手し、しばし慰まむとする。年年歳歳人は齢をとり、然るに放棄地の梅の古木は変わることなく甲斐駒ヶ岳を背に真っ白に雪の如くに花を披く。だからわたしは今年もやって来たよときみらにそのことを告げる。
倉石智證


























