皆様、お待たせしました!
遂に...アレクサンドル・ルビャンツェフ 、ピアノリサイタルの時間です。
「いや、待ってないけど」(←読者の皆さん)
...
アレクサンドル君だぞ、アレクサンドル君!
待ってなくても、嫌でも読め!
(強制するな)
私がアレクサンドル君に興味を持ったのはチャイコフスキー・コンクールの逸話。
といっても、別にコンクールには興味ないし、オタクではないので西本さん に会うまで全然知らなかったわけだけど。
やっぱりあそこで西本さんに会ったのは運命だったのだなー
どこでどう繋がるかわからないものねー。
でもまさかこれほどの衝撃を受けるとは思ってもみなかった...
それも期待してたのとは全然違うタイプで...
さて当日。
あ、会場は日経ホールね。
規模的にはこの前の紀尾井ホール と同じ位かなぁ?
1階席しかないけど。
もっと有名な人かと思ってたので、割と小さなホールでちょっと驚いた。
まぁ席は殆ど埋まってたけど。
それより割と近いので助かった。
何と始まりが6時半だったから。
もしかしてアレクサンドル君て早寝早起きの良い子なのかな?
いつも通りほぼぎりぎりに到着しまして
(いつも通りって、最近遅刻ばっかじゃないか)
自分の席を探したら...
おお!縦から見ても横から見てもほぼ真ん中。
ピアニストが弾く際のほぼ正面。
手が結構見えそう...
うーん...でも普段位置の高い(安い)席から見下ろしてるから、もっと後ろでも良かったかなー?
もうちょっと上からの方が手も見易いような...
さて、ピアニスト登場。
......え?......これが...?
......
これが...
...アレクサンダー・ルビャンツェフ?
(↑この時はまだアレクサンダーだった)
ネット画像で見た汗だくの鬼神のような表情↓
(http://www.samonpromotion.com/jp/artist/index.php?i=167 )と、チャイコフスキー・コンクールでのエピソード、それにルビャンツェフという怖そうな姓から、骨太なゴツいおっさんタイプかと思っていたのだが...
(怖そうな姓...?)
ついでに演奏も同様の理由でどちらかというと、ショパン・コンクールでの似たような逸話を持つ、かつてのイーヴォ・ポゴレリッチのようなタイプを想像していたのだが...
いやイーヴォも見た目おっさんタイプではなかったが...
しかし...これは...
これが...アレクサンダー・ルビャンツェフ?
本当に?
この...ひょろっとした生っ白い...何だか頼りなげな坊やが...?
そりゃ貰った案内の中に載ってた写真も表紙(上の画像と同じ)とまるで別人でちょっと驚いたが...
でも暗がりでちらっと見ただけなのでやはり表紙の印象が強く...
これが...本当に...?
目が悪いので顔までははっきりとは見えないが、何か雰囲気といい表情らしきものといい、ヨーロッパ辺りじゃ10代で通るぞ、十分。
本当に、この坊やが...鬼才?
それともあれはやはり単なる宣伝文句?
でも単なる優秀なピアニストなら、彼のようなコンクールでの騒動は起きない筈だしなぁ...
本っ当に凄い弾き方するの?
この貧しげな青年が?
(貧しげ?)
いや何か貧しそうなカッコで出て来たから。
タキシードとかってピアノ弾くのに邪魔だろうと前々から思ってるので別にそうでなくても、タイもしてなくても私としては好ましいが...
今全国縦断中 でフルオケとの共演ではそれなりのカッコしないとならないから、足りなくなって適当なカッコで出てきたとも解釈できるが...
何か安そうな生地に見える...
稼ぎまくってるのかと思ってたが、どうもそうではないらしい。
単に服装に無頓着なのかもしれないが。
貧しいなら共感覚えるし。
(↑貧しいカバ太郎)
まぁカッコはともかくこの時点で著しく不安を覚えたというか、期待したのとは違うのじゃないかという気がしないでもなかった。
まさかこんな頼りなげな坊やが出て来るとは思ってもみなかったので...
君、本ッ当に凄い演奏するの...?
(くどい!)
などという私の心配をよそに、何か照れくさそうにぺこんとお辞儀してストンと座ったアレクサンドル君。
いきなり弾き始めた!
...ちょ、ちょっと待て。
間は要らんのか、間は?
気持ちを落ち着けて集中力を高めるとか、これから弾く曲の世界をイメージするとか...
1曲目 ベートーベン「ピアノソナタ第31番 変イ長調」
驚く私の耳に入ってきた音は...
......え?
...ほぉー、これはまた何とも...まろやかーな...
全く予想外だったが...
ほにゃー...
(↑まろやかな音を聴いて不抜けている)
和(なご)んでいると言え、和んでいると。
...何だろう、この音?
何だか不思議な...何か優しいものに包み込まれていくような...
ほにゃー、ほにゃー、ほにゃー...
(↑早くも猫にマタタビ状態)
和んでいるんだってば!
とはいえ...
何だか随分あっさり弾いていく感じだなぁ...
アルペジオも無理に繋げようという気はないような...
何か見てると無造作と言ってもいい位に見える...
いやさらっと繋がってはいるが...
これが...凄い弾き方...?
なのに何だろう、惹きつけられる...
たかが弁当屋の長調ソナタで。
弁当屋は短調ソナタしか惹かれない筈の私が...
それも特に盛り上がりがあるでなし、激しいわけでなし、誰がどう弾いても面白くなりようがないような、何てことない曲の筈が...
何故ここまで...?
弁当屋の長調ソナタでここまで私を魅了する演奏が他にあるだろうか?
......
...ああ、折しも季節は春...
♪長調♪長調♪菜の葉にとまれ♪
(↑既に錯乱している)
錯乱とは何だ、錯乱とは!
はっ、サクランと言えば...
ああ、折しも季節は春...
♪サクラン♪サクラン♪やーよーいーのそーらーぁはぁ♪
(↑もはや手の施しようがない...)
などとやってる内に曲は第3楽章へ。
(...ほんとにちゃんと聴いてたのか?)
この楽章には「嘆きの歌」と呼ばれる短調部分がある。
...あああ、何という...何という哀愁...
胸に迫るというよりは...沁み入って来る...ひたひたと...
こ、これは...!
しかし...
これベートーベンの音か?
弁当屋特有のギコギコした感じがまるでない。
(ギコギコ?)
寧ろロマンティシズムの極みみたいな...
こんなベートーベンは聴いたことがない。
こんな弾き方をする人は他には...絶対いないだろう。
こんな解釈が...?
だから...異端なのか?
最初はイーヴォのような攻撃的な怒涛の演奏を期待していたが...
それこそが好みの筈の私だが...
それ以上に...この弾き方は...異端なのではないか...?
ということで、1曲目からもうバシバシ拍手!
..なんだけど...
このコ弾いてる時とそうでない時とのギャップが相当大きそうだなぁ...
シャイなのかなぁ?
普通椅子の前側に立つだろ、こういう時?
向こう側に立ったまま何だか照れくさそうにペコンとお辞儀して、またそのままストン。
...え?
ちょっと待て。
袖に引っ込まないの?
通常ピアノリサイタルではピアニストは一まとまり毎にステージから出たり入ったりする。
これは前の曲から次の曲への気持ちの切り替えという面もあるかとは思うが、それ以上に時間稼ぎの面が強いのではないかと思う。
さりげなく弾いてるようでも曲によっては腕の疲労が激しい。
そう、指より腕!
時間稼いで少しでも休ませ、疲労回復を待つのだと思う。
...まぁでもまだ1曲弾いただけだし、1曲目というのはそれほど難曲ではないのが普通だし。
って、もう20分以上は弾いてるんだけど...
って、おい!
またも座って間髪入れずに弾き出した...!
ちょ、ちょっとちょっと、曲に対する気持ちの切り替えしないでいいのか、君は?
全然違うタイプの曲だぞ。
2曲目 ラフマニノフ エチュード「音の絵」
正直言って、私は玉虫君の曲はオケ曲の方が断然好みだ。
玉虫君特有の玉虫色にきらめくロマンティシズム溢れる曲想は、何故かP-コンを含むオケ曲の方に如実でピアノ・ソロ曲にはそこまでのロマンを感じない。
旋律の動きに和音が多用されるからか、少しゴツゴツした印象さえある。
リスト同様、彼もまた大層な名ピアニストだったそうだから、ピアノ曲を書く場合に技巧が先に立ってしまったのかな?
P-コンのロマン溢れるピアノパートを考えると不思議なんだけど。
「音の絵」もテープで持ってるのだが、もう何年も聴いていない。
あまり印象に残る旋律もなく、正直どんな曲か正確には覚えていなかった。
のだが...
...え?
これ「音の絵」か...?
こんな曲だったっけ?
全然イメージが違う。
もっとゴツゴツした感じの曲だった筈だけど。
でも今聴くこの曲はまるで流れるような...
それとも...ラフマニノフの「音の絵」は何種類かあるのか?
と思ったら...最も印象に残るフレーズが出てきた。
...やっぱり同じ曲だ...
それで何故ここまで違うのだろう?
本当に何なのだろう、この音は...?
それにしても見てると何とまーあっさり。
相当な難曲でもあると思うのだけど。
まるで技巧を感じさせない。
そして...やっぱり優しい何かに包まれるような...
こんなラフマニノフは聴いたことがない...
他のピアニストだとゴツゴツした印象になるのは結局弾きこなせてないということか...?
いや、それだけではないだろう。
ここまで印象が違うのは...
で、またバシバシ拍手。
で、また椅子の向こう側に立ったまま照れくさそうにペコン、でストン。
...え?
ちょ、ちょっとー!
また引っ込まないの?
3曲目 ショパン「ノクターン第13番 ハ短調」
実は私はショパンのノクターンは知っている曲が非常に限られている。
いや中には聴けば思い当たるのもあるのかもしれないが...
この曲は初めてだったが、ショパンのノクターンの中でも恐らく最も好みに違いない。
...と思うのだが、それもまた...演奏故...なのかも知れない...
......
何という哀愁か...
さっきの弁当屋の「嘆きの歌」の時にも感じたのだけど...
やっぱり...やっぱり...彼には憂いと哀愁が最も似合う。
他のどれも出色の出来だ。
どの曲のどんな部分でもこれ以上はないほどに歌い上げ、聴く者を魅了する。
それでも、この憂いと哀愁に満ちた演奏が...最も彼らしい...!
最も何かを感じさせる...
うるうるうる...
それにしても...何だろう、この音...?
(そればっかりや)
この...不思議な音...
まるで音の一粒一粒が透明な球体に包まれているような...
その球体は硬質ではなく、触るとぽよぽよと弾力があって、でも決して破れない。
だから中の音一つ一つも決して傷つくことがない。
そんな音が後から後から紡ぎ出されていく...
(...そんな音って...全然どういう音かわからないぞ、常人には)
だってそういう音なんだってばー。
わかり易いことを言えば...天才的な技巧と音楽性がなければ不可能な音だということ。
あれだけ抑え目の音でここまで傷一つない、粒のそろった音、それもその全てが生き生きとした何か優しいものを湛えた音...
勿論、抑え目の部分ばかりではなく、躍動するところは躍動する。
これも凄いテクニックだ。
でも技巧を感じさせるより前にその音楽性で魅了してしまう...
ラフマニノフの音 を初めて聴かせてくれたアンナおばさんもそうだったが、技巧を技巧と感じさせない、単なる技巧を越えた技巧...
まぁあの時は馬男のせいでそれを十分堪能できなかったが...うがー!!
実はこのアレクサンドル君のリサイタルの時も終始客席がうるさめでその点だけは腹が立ってしょうがなかった。
これほどの演奏を前に...
どういう根性だ!!
いややめよう。
今はただ、あの忘れ得ぬ演奏に浸るのだ。
うるうるうる...
ぽよぽよぽよ...
(ぽよぽよした音の哀愁...?)
ぽよぽよは保護材!
音はその中!
(やっぱりワケわからん...)
4曲目 リスト メフィストワルツ第1番「村の居酒屋での踊り」
言わずと知れたリストの難曲の1つ。
なんだけど...
ちょっとー!
これも引っ込みなしの間なしで弾くわけ?
切り替え不要なのはもうわかった。
何故か彼は弾き始めるともうその曲の世界に遊んでしまうのだ。
これも天才的な音楽性故かと思うが...
しかし...
腕の疲労はないのか、君は?
もう50分位弾きっ放しだぞ。
それも難度の高い曲ばかり。
クライマックスのアルペジオは大丈夫か、それで?
などという心配なぞ「ホットケ」とばかりのアレクサンドル君。
...これはまた随分と抑えるところは抑え目な...
なんだけど、ガーッと行くとこはガーッと行く。
疲労は...まるでないみたいだ。
にしても...この曲ってこんなに音楽的だったっけ?
(音楽なんだから音楽的だろうが)
そうじゃなくて!
何度も書いてきたが、リストのピアノ曲は技巧が先に立つものが多い。
だからどうしても音楽性が犠牲になっているようなきらいがあるし、聴く方もある程度そういうものとして技巧を楽しむような面がある。
と思う、というか少なくとも私はそうだ。
...の筈...なんだけど...
アレクサンドル君の「メフィストワルツ」は目一杯音楽的なのだ。
この曲がここまで音楽性を感じさせるとは...!
こんな弾き方は...やっぱり他では聴いたことがない!
物凄い技巧なのに...それを何なく弾いていくのに...それより音楽性が先に立つ。
純粋に音楽として楽しめる。
君は一体...
心配したアルペジオもまるで心配無用だった。
そして...
前半終了。
バシンバシンと拍手。
今度こそ、アレクサンドル君も舞台袖に引っ込んだのであった...
ちょっとここで一端終了ね。
トイレ行きたいもので...
お腹もすいたし...
でも今日中に書くよ。
アレクサンドル君のこと、後半だけでなくもっともっと書きたいことが一杯!
だからリサイタルだけでも今日中に終わらせないとね。
わーい、アレクサンドルくーん♪
ぽよぽよぽよ...