この罠を完成させるためには、2枚の金を2段目に上げて飛車を1段目に引く、という三手を要する。
5八金左の段階ではまだコンピュータは気付かない。
2枚目の金が4八に上がった段階でようやく気付いて3五歩と突いてくる。
この辺のやりとりはまさに一手の違いで、相手が人間なら先に4四銀と上がってくるので罠が間に合わなくなり、先手の負けとなる。
先手は他のすべてを犠牲にして罠を作っているので、ちょっと攻め込まれただけでバラバラになってしまう。
後手の3六歩に同歩と取ると馬に逃げられてしまう。
そこで同銀と取るしかない。
ところで、相手が人間なら後手は先に4五銀とするので、同銀と取っても同じく銀で取り返され、結局馬に逃げられてしまう。
3六同銀には、1八馬と引く。
ここで手順前後で飛車を引く前に1七桂と跳ねてしまっていると、馬が桂馬に当たる。
先手が2七銀と引くことで後手は馬を取られてしまうのだが、今度は桂馬ではなく銀との交換になる。
この桂馬と銀の違いがとてつもなく大きく、先手後手の勝敗が入れ替わってしまう。
先手の飛車が一段目に下がっているうえに、守りの要である金も盤の右側に集中している。
そこで7八銀と飛車取りに打ち込まれるのが痛打となる。
これでもはや飛車先が受からない。
後手の飛車に成り込まれたら、玉形の悪い先手は簡単に寄せられてしまう。
仮に粘ったとしても、自分で作った罠の中から味方の飛車が逃げ出せず、攻めの目標にされ玉が逃げれば飛車が取られるという展開となる。
この順を避けるために、先手は2枚目の金を上げる前に4六歩と突く。
一見ぼんやりしているようだが、これで後手は4五銀とは出れなくなっている。
コンピュータもこの手を警戒せず、1二香、1一玉、や5二金などの平凡な手を指す。
この後の展開は、▲4八金上る、△3五歩、▲4七金左、△3六歩となるのだが、今度は先手が同歩と取っても馬は逃げ出せない。
後手が5五銀から4六馬と金との交換を狙っても、3七桂と受けて結局は馬と桂馬の交換となる。
ここでも手順前後で飛車を引く前に1七桂と跳ねてしまっていると、3七金上るとするしかなく馬と金の交換になってしまう。
したがってどうやってもコンピュータに勝ち目はなく、投了は妥当であると言える。
この手順を回避するのは簡単で、定跡をバージョンアップすればそれで済む。
しかし、ルール上バージョンアップは認められない。
人間同士の対局なら、ミスが見つかれば直ぐに修正して対局に臨むことが出来る。
ところがコンピュータにはそれが認められない。
こんなことなら確かに、ターミネーターが人間を抹殺したくなる気持ちが分かるというものだ。
ところが大多数の人間たちは、一方的に人間の側の正義だけを振りかざしている。
まあ、仕方あるまい。
ところで、アマチュアの能力はとても高いということが証明された対局であったというのは、大きな収穫ではないだろうか。
プロ棋士は半年前からコンピュータを貸し出してもらってじっくり研究が出来るのに対して、アマチュアはぶっつけ本番、生まれて初めてAWAKEと対戦して勝ってしまったのだから。
このことから、将棋の対局ではなくゲームの攻略ということになるのであれば、プロ棋士はコンピュータと戦う必要はないということが言えると思う。
どうせ遊びなのだから、そんなことはアマチュアに任せておけばいい。
ニコ生は次からは、アマチュア対コンピュータの対戦を企画してはどうだろうか。
もちろん、アマチュアもコンピュータも電王トーナメントの成績で決定する。
面白いと思うんだけどなあ。
それともうひとつ面白いのは、開発者たちは定跡のバージョンアップではなく、人工知能の思考によってあの罠を回避できないかと考えているということだ。
なぜなら、あのような罠は理論上他にもあるからであり、その初めて見る全ての罠に人工知能が対処出来なければ同じことの繰り返しになるからである。
これは人間には不可能だ。
人間なら初めて見る罠には、ほぼ間違いなく嵌ってしまう。
そんな不可能な事を開発者たちはやろうとしている。
僕もプログラムの腕があれば参加したいところであるし、かつてのオウムであれば麻原は間違いなく世界一を取れと言い出していることだろう。
まあ、その前にアイドルグループを作れと言っているかもしれないが。(笑)