これまでのところ、徹底的にコンピュータのバグを突くという戦術が、功を奏する結果となった二勝と言えると思う。
永瀬は勝つのではないかと思っていたが、斉藤まで勝ってしまったのは予想外だった。
それにしてもコンピュータにはまだまだ問題が多いなという印象だ。
もっとも、この問題が無くなってしまったら、その時はまさに自分で思考する人工知能の完成ということになってしまうのだが。(笑)
Aperyの苦戦ぶりはコンピュータどうしの電王戦から続いているが、僕にはこれが不可解だった。
前年の世界選手権では、スペック制限なしのponanzaにも勝って優勝しているのに、なぜか5位に低迷してしまった。
これは個人で使用していたパソコンから、ドスパラへの移植が上手くいっていないのではないかと思っていた。
だが、苦戦の理由はそれだけではなかったらしい。
斉藤と戦ったAperyは最初から動きがおかしかった。
序盤から一手指すごとに10分もの時間を消費し、その上でコンピュータとは思えないようなミスを繰り返していた。
本来のAperyの強さを大人とするなら、斉藤と戦ったAperyはせいぜい小学生ぐらいの強さだろう。
なぜそうなってしまったのかという理由は、電王戦の厳しいルールにあった。
コンピュータ側はプロ棋士に、本番で対戦するマシンを半年間貸し出さなければならない。
その間にプロ棋士側は対策を立てることが出来るのであるが、これはコンピュータにとっては恐ろしく不利なルールである。
人間同士の対局でも同じことなのだが、どんな新手・新戦法であろうとも、時間をかけて対策を立てられると通用しなくなる。
これはコンピュータも同じ事で、基本的には同じ局面で同じ手を指すように出来ているために、対策を立てられたらコンピュータ側の負けが確定する。
そのためにコンピュータ側が何をするのかというと、指し手をランダムにするということである。
これは将棋を知らない人にはピンと来ないと思うが、要するに最善手を指さないということである。
なぜなら、最善手を指すと、同じ局面では毎回同じ手を指すことになるからである。
このコンピュータ側のやり方は一見よさそうに見えるのだが、貸し出した時と本番では設定を変えてはならないというルールで身動きが取れなくなってしまっているのだ。
最善手を指さないとはつまりは悪い手を指すということなのだが、貸し出し時にランダムで本番で最善手という設定でもよければ同じマシンでありながら強さは格段に違ってくる。
おそらくプロ棋士は誰も勝てないだろう。
しかし、ルール上それは出来ない。
Aperyは貸し出し期間の長さを考慮して、5番目の手までをランダムに選ぶように設定されていた。
これはいくらなんでもランダム過ぎる。
もしかしたら開発者はプロ棋士をあまりにも甘く考えていたのだろうか?
普通に考えれば、将棋の指し手は上位3番目ぐらいまでの中から選択するのが限界である。
さらにこれは終盤になると、選択肢は一つしかないという局面が多くなる。
結果は御覧の通りになり、Aperyは4番目、5番目の悪手を連発し、敗北を喫することになった。
当然のことだろう。
Aperyは本気を出していないのだから。
将棋というものは、人工知能の分野では最先端と言っていい。
ロボットというものは動きの制御がメインになっているが、将棋は知能そのものである。
日本というのは、優秀な技術者が正当な評価を受けることの無い、悲しい国のままなのだろうか?
Aperyの指し手がどれほど酷かったのかの解説は、また後でやる予定でいる。
電王戦FINALも残り二局、全力を出さない(正確には人間の都合で全力が出せない。)コンピュータがどんな戦い方をするのか、楽しませてもらおうと思う。
それにしても、かつてスペック制限の無いコンピュータを相手に真正面からぶつかって、力でねじ伏せた渡辺 明の強さを改めて認めざるを得ない。