ヴァジラヤーナを実践する心構えを村井に聞いた事がある。
その時、村井はとても嬉しそうな顔をしながら、目をキラキラ輝かせてこう言った。
「今までに学んだことは、全部捨てろ。」
さすがだねえ。
こんなセリフは村井にしか言えないだろう。
オウムに関わり合いになるような連中は、精神世界について相当に詳しい。
何十冊も本を読み、いろんなところでいろんな事を実践し学んできている。
自分にはこれだけの知識がある、これだけの体験をしてきているという自負がある。
それを村井は全部捨てろと言ったのだ。
しかしこれは、何か新しいものを学ぼうとする者の態度としては当然といえる。
当然といえるのだが、それが出来る人間は極めて少ないのではないだろうか。
それをあっさり捨てられる。
ここに村井の非凡な才能が見て取れる。
オウム内でこれほどの才能を持った男は他にはいなかった。
オウムで修行を始めて、早い時期に村井の存在を知ることが出来たのは幸運だったと思う。
自分の能力では絶対にかなわない才能がいることを知って、僕は村井とは違う道を選択することが出来たからだ。
そのおかげで今の自分がある。
村井には感謝するしかない。