最初に話を聞いたのは88年の春ごろだったように思う。
あの頃毎週日曜日の午後に、ボーディーサットヴァの会という信徒の集まりがあり、そのときにまだ成就する前の村井がアストラルテレポーターの企画を語っていた。
麻原がエジプトへ行った時、石室の中でマントラが反響することを発見し、それを再現できないかというものだったと思う。
デジタル録音できる専用の装置を開発し、それを専用の部屋で16chサラウンドで再生するということだった。
CDの数十万倍の分解能を持つデジタル録音装置により、原音に忠実な麻原のマントラを再現し、その音に包まれて一気に意識をポアさせる。
というものだったが、ここですでにいくつかの問題点が存在する。
麻原のマントラを反響させたいのであれば、作るべきなのは16chサラウンドシステムではなく効果的に音を反響させる石室の方である。
おまけに、どんなに原音に忠実に再生できる録音装置があったとしても、CDの数十万倍の高性能のマイクはどこにあるのだろう?
さらに、その音を再生するスピーカーは、CDの数十万倍の高性能の音を忠実に再現できるのであろうか?
まあ、村井のやることは大抵は大風呂敷を広げては失敗するというパターンなのだが、このばかげた企画を実現する天才がオウム真理教には存在した。
それが富樫である。
今でこそハードが格段の進歩を遂げているために、誰でもそこそこの性能のボイスレコーダーを持てる時代であるが、富樫は今から25年も前にろくなICも無い時代に電子回路の組み合わせだけで、理論上はCDの数十万倍の性能を持つ録音装置を完成させたのである。