「じゃあ、冷やしてくれ。」
巨大プラントの滅菌が終わった後に村井はそう言ったのだが、僕は直ぐにはその意味が分からなかった。
広瀬が水専用のタンクからホースを引っ張り出してきてそれで水をかけるのだという説明をしたときには、はっきり言って絶句した。
村井と関わりがあった人間なら何度か経験していると思うが、村井は時々とんでもない失敗をやらかすのだ。
どうやらこの巨大プラントにはスチーム用の配管しか通っていないらしい。
普通に考えれば、滅菌用のスチーム、冷却用の水、培養温度を保つためのぬるま湯、この3種類の配管が必要なはずだ。
広瀬がちょっと困ったような顔をしていたが、村井の設計に口を挟めるはずもない。
仕方がないのでホース、といってもほんとの家庭用の散水に使われるようなホースなのだが、で水をかけることにした。
40トンの熱湯に、その容器の外側から10トンの水をかける。
誰がどう考えても冷えるはずがない。
それでも夜通し水をかけ続け、10トンタンクが空になる明け方には80度ぐらいにまで下がっていたと思う。