ボツリヌスの培養が失敗した理由としての専門家の見解は「複合的要因」というものになっている。
なんだか投げやりな感じもするが、あまりにも突っ込みどころが満載で分析を途中で諦めたのかもしれない。
土屋と遠藤の比較では、土谷が優秀であり遠藤はそうでもないという考え方もあるようだが、僕はそうは思わない。
ABC兵器の中で化学兵器が最も開発が簡単であることは専門化には明白である。
遠藤が取り組んだテーマは初めから、土谷が取り組んだテーマよりもはるかに難しいものだったのだ。
サリンは第二次世界大戦中にすでに量産化されており、土谷はすでにあった文献を参考にしてわずか1ヶ月でサリンの合成に成功している。
それに対してボツリヌス菌の大量培養は、人類史上未だに前例がないのである。
それでも遠藤は、少なくとも5菌株のボツリヌスの分離に成功している。
教団内で行われた実験では、2,000匹から3,000匹のマウスの内100匹を超えるマウスが死んだということだ。
僕は医学の専門家ではないので、この数字をどう判断すべきかは分からないが全く意味がないとも思えない。
幹部達の判断はともかく、麻原は培養は成功したと判断して、散布を命じた。
その結果は事件にも何にもなっていないのだが、遠藤は自分の培養には問題はなかったと主張している。
僕が考える限り、遠藤は相当に厳しい培養条件を突きつけられているように思える。
サリンであれば初めから液体であり、気化しやすいために兵器としては扱いやすい。
しかし、生物であるボツリヌスは液体ではない。
しかも、勝手に気化してくれるわけでもない。
本来は固体であるものを、後に兵器として使用するために、水の中という厳しい条件での培養を余儀なくされたということなのだろうと思う。
ボツリヌスの培養に必要な嫌気性という条件を守っての培養ということになると、どうやってそこから毒素を取り出すのかという問題が残ってしまうからだ。
もし、遠藤に質問出来る機会があるとするなら、仮定の話として聞いてみたい。
もし嫌気性を守れる培養条件、たとえば粘土の中とか寒天培地の中であれば、はたしてボツリヌスの培養は可能であったのかを。