恋愛小説家 -87ページ目

モスバーガーは分厚いんです

<どうしてモスになるのよー!?>


目の前に置かれた「モスバーガー」を恨めしげに見下ろしつつ

狭いテーブルを挟んで、心臓はバクバク。食欲なんてもの感じないぐらい、喉まで “緊張” が詰まっていた。


ここまでたどりつくまでの4ヵ月は、それなりに、長かった。


初めて姿を見た瞬間、「好きになる・・・」という予感がした。

思い込みが手伝って、私は勢いよく恋におちた。


放課後の教室に忍び込んで時間割を書き写し

柱に寄っかかって読んでいた本を、即日購入。


誰か、特別な人がいると知っても、

「まだ好きでいていいですか?」なんてしおらしくつぶやきつつ

本音は略奪に燃え、あきらめるもんかと宣戦布告。


ラッシュが嫌いだと耳にすれば、

オフピークの電車に乗り合わせる偶然作戦。

イヤホンからはおそろいの音楽。


誕生日にプレゼントしたTシャツ

趣味が違って一度も着てくれなくても、どんなときも笑顔従順。


住所探索、ご近所訪問。

我ながら執念・・・一歩間違ったらストーカー?


ファーストフードなら、モスが一番好き・・・

妙なところで意見一致。

そして、ついに取り付けた約束が、なぜかモス。


ああ、でもでも。 頼んだあとで気がついた。

 

モスの欠点は、“きれいに食べにくい” こと。

大口を開けて丸かじりするにも、恥ずかしさが勝るお年頃に

タマネギをポロポロこぼしたり

ソースをぼたぼた落っことすなんて、できっこない。


予想外の刺客、「モスバーガー」を、ちびちびかじる私の前で

彼は子どもみたいに「テリヤキバーガー」をぱくついていた。


見ていて幸せになるぐらい、おいしそうに食べる素顔発見。


レタスが多すぎて、口に入りきっていないし

ちょっと厚めの唇の端にマヨネーズが白くくっついていた。

この人ったら、思ったより格好悪いくせに・・・素敵すぎる。


緊張なんてどこへやら。私まで急にお腹がすいてきた。

口が開けば、会話も弾んだ。

まるで回し者みたいだけど(笑)

この日のモスは過去最高においしかったの。

  

if

「if の話は滅多にしないのよ。
 した所で どうにかなる問題じゃないし」

解っているなら、しなくてもいいじゃない。
・・・それでもあえて if の話をしてみようか

if

たとえば
もしも10年前に戻れるならば、どうしてると思う?

「そうね・・・
 私は何をして 誰と一緒にいるかしら
 今までずっと その人と一緒にいられたかしら
 しあわせに互いを尊敬しあったままで。」
 
忘れちゃいけないことがあるよ。
if の世界では、答えもまた if でしかないってこと。
私情を差し引いてフェアに考えても、その「もしも」が叶うことは難しいだろうね。

若いころには若いころなりの
ものごとを測る定規があったということで
その時だって精一杯 目の前にあった「今」のために
さまざまな選択や判断をしていたんだ。

なんて愚かだったの? とか
人生を巻き戻したい! とか
 
そんな風に後になってああだこうだ騒ぐのは
むしろ “成長した証” と思うべきだろう。
 
ひょっとすると if の世界でも君は
別の人生を仮想してため息をついているんじゃないかな。
何が正解で何が最高だったかなんて
結局のところ、考える必要もないことで
そのころに もがいていた自分を恥じることもない。
これまでの健闘をたたえて、愛してあげたらいいじゃない。

少なくとも、僕そういう君をずっと愛しているけどね。
 

天然な彼女

私が心底かなわないと思うのは、「天然な女」です。

世渡り上のキャラ作りがさせる “あざとい物知らず(いわゆるカマトト)” ではなく、「あぁ、根っからそうなんだ、この人は」という風に、時に人を呆れさせるほどの無邪気さを持ち合わせた、「素のまま」な人。

だまされやすく、どこか危なっかしくて守ってあげたい。 私が男だったら、知らぬ間に心をつかまれていそうな、妹分のパーソナリティ。 それが、彼女たちのチャームポイントです。
 
いつだったかの昼休み。社員食堂で、同期の友人と私が並んで座る、テーブルの上には「ブルボンのルマンド」。

すると彼女が唐突に口を開き、
「バーボンのノレマンド、おいしいよね!」と、一言。
私はお腹がよじれるほど笑いころげました。

Bourbonって、
それ「バーボン」じゃなくて「ブルボン」だって。
しかも! 
「ル」は、「ノレ」じゃないだろ~!?

「嘘!?ずっとノレマンドだと思っていたよ。ショック~!」
本気でそう思って、このひとは20年以上も生きてきたようです。
そんな彼女はやたら可愛い。小動物みたいに、愛らしい。

天然な女には、絶対かなわない・・・
恋のライバルにはなりたくないです。
(ま、趣味が違うから大丈夫か)

ずるい人

なんだか予感がした

「また君がぼくを必要なときには、
 声をかけてくれたらいい。
 困ったとき、上手に使ってくれたら良いから」

その言葉は
とても気が利いているようで
残酷な一言だった

<私があなたを必要なとき> だなんて言うけど
<いつだってそうだ> ということを
わざと見落としている

「君に呼ばれたから来た」 そういって
責任をすべて押し付けて
甘い気持ちに させられるはず

やさしさの裏側にある
突き放したい本音が見え隠れ
これで 私は完全にふられたんだと悟ったの
  

Uncle Dove's Advice

人の気持ちは簡単に腐るのに、なかなか元には戻らないものね。


隣の夫婦喧嘩は、ときどき物が飛んでいるみたい。
何かが壊れる音がするし、
フロアを踵で踏み鳴らしてうるさいの。
ヒステリックな泣き声がする。

事件じゃないかって心配で、つい壁に耳を近づけちゃう。

それで、余計なことまで耳に入っちゃうんだけどね。


だけど・・・
あれほどまでに自分の感情に身をまかせられるなんて
はた迷惑でも、考えようによっては、

それはそれで素直な生き方よね。


だからね、私もボーイフレンドに苛立ったときに
ためしに こぶしで壁を叩いてみたの。
 

バンって!
 

そうしたら・・・。なんてことない、ただ痛いだけ。

おまけに次の日、小指の下に青あざができていて馬鹿馬鹿しくて。
私、余計に悲しくなっちゃった。



「それでもね、

 思い切ってグラスを投げたりするのって
 ちょっと気持ち良さそうな気がするわ。
 それを自分で後片付けするとき、情けなくなるんだろうけど」

Uncle Doveは、ふぅとパイプの煙を吐き出しながら
大したことじゃないよと、いう顔をして聞いていた。

「投げないだけ、君が “まとも”ってことさ。
 まあ、でもね・・・

 もし本当に投げてグラスが割れたなら、それでいいじゃない。
 新しく、また自分の好きなのを買えばさ。

 とびきり奮発すればいいさ」

独身のひと

コーヒーを落としている。

何から話そうか、沈黙している空気に、こぽこぽ音が聞こえた。


手持ち無沙汰で、室内を見回す。

都内に事務所をかまえたと知り、祝いに来たのはいつだったか。


「東京進出! 市、だけどね」

「乗り換えがちょっと面倒だけどね」

「手土産は不要だけどね」


<だけどね>ばかりの葉書が届いたとき、

ほとんど発作的に地図を開いていた。



本棚の蔵書がますます増えている。
食玩の給食セットがちまちま陳列されている。
誰かが持ってきたらしき、食べかけのお菓子。
マッチの燃えかすと吸殻が詰まったブリキのバケツ。
株分けして、やたら増えている植物は
どれもこれも、枯れかけていた。


水遣りをしなきゃと、慌てて立ち上がった。
雨を欲している植物達がみんな、
頭の中が酸欠して、今にも倒れそうな自分とダブった。

流しの水切りに急須を見つけて水を汲んでいたら
「あ、今コーヒー淹れてるよ」
雑多な仕事の山を越えて、声が届いた。
さりげなく、きちんと私を見ている。

「うん、植物枯れてるから」
「まいるね、忙しくて」

本から顔を上げた、見慣れない表情。
そういえば、眼鏡をかけた顔は初めて見たかもしれない。


これまでの、空白の長さを思い知るには十分だった。

独身のひとは、まだ独りで生きている。

  

このところの私

この町のどこかに、彼女が彼と住んでいる。


通過するたび、見慣れた駅を眺めながら

まさか、突然偶然、いたらどうしようかと姿を探す。

最後に会った日に聞いた話では、新居はこの駅にしたそうだから、

いつか家族でいる姿に遭遇するかもしれない。


もしもの話は好きではないけど、

そうしたら、私はどうするだろう。


見ないふりをするのか、自然に挨拶をするのか、

物陰に隠れるのか。

(隠れるなんて、後ろめたいことをしているみたい!)


自分的には、目が合っても笑えるぐらいの余裕があるといい。

(背けられたら落ち込みそうだけど。)


いつの間にか、面白半分に自問自答できるまで回復したし。

(なんて・・・かなりの時間が必要だったけど。)


さあ、今日も仕事だ、しっかりしよう!

それに、今夜は久しぶりにデートだし。

そろそろ応えてもいいかな・・・そんな気がするぐらい、

新参者の彼がテリトリーを拡げつつあります。

 

千鳥格子

一見チャコールグレーに見えるけど 実はこまかい千鳥格子なんだ
そのスカーフは母のおさがりで、私のお気に入りだった。さすがに年代物らしく、少しばかり端がほつれていたけれど、そんなことは気にならない。もともと上質なものを使い込んだ旧さも美徳に思えた。長すぎず短すぎず。やわらかな絹糸があたたかく、羽織ればほのかに桐箪笥の匂いがした。愛着が沸いた分、余計に手放せなかった。

仲間たちと、写真を撮りに古い一眼と三脚を持って海へ行った日。指先がかじかむほど冷えた空気のなかで、早朝から波を待つ若者が遠い海面に浮き沈みしていた。

太陽はゆっくりと昇っていく。光に眼を細めながら、そのままでもレンズ越しでも関係なく、私の視線はほとんどアイツを見つめていた。 くたくたのピッグスキンのコートは誰からかの貰い物だそうで、袖口がかなり煤けていて、可笑しいほどだぶだぶだった。

寒そうなその襟元に、私は自分のスカーフを巻いた。砂浜に足音を消されていたから、アイツは少しおどろいた様子で振り返ると、ちょこっと肩をすくめた。
逆光で見えない、笑っていた・・・だろうか?それから本当に滑らかな動きでカメラを構えて、黙って一枚、私を撮った。

我ながら勇敢だった、それなのに・・・うつむくしか出来ない。


千鳥格子のスカーフはアイツにとてもマッチしていたから、「返して」と言い難く、そのまま私の元から離れていった。その日は本当に寒い日だったので、内緒だけど、私は後から風邪を引いて2日寝込んだ。

毛布に鼻までうずめて考える。
“私はアイツのどこが好きなんだろう?”

熱のせいなのか、風邪薬が効いたのか・・・いつも以上に頭の中が麻痺していて、世界がぼんやりしている。まぶたを閉じると、潮風の中にたたずむよれたピッグスキンの背中が見えた。襟元に巻かれたスカーフの匂いが、やけに懐かしかった。

手当てが必要です

手のひらにはチカラがある。痛いところをなでていたら、つらい気持ちが和らぐように。

「だから『手当て』っていうんですよ」と、整体の先生に言われたときに、日本語の美しさに心底感動しました。


昨日、私の手が生み出すものごとについて考えていました。

そもそも私は、何のために書いているのかと。


人に応援されて、いいものだと愛されて、出逢った人と「こんなことがあった」と心に残る話をシェアしあい、見聞きし、私なりのフィルターを通じて表現していく。


逃げ隠れしない。挑戦。今ある「仕事」とはまた別の世界。

書くものへの責任を持ちたいという、自戒のようなこだわり。

オリジナリティ、誰のために書くって、極論をいえばきっと自分のため・・・


それは、そんなにおかしなことでしょうか?


例えば、世間を騒がすベストセラーについて「良書」だと、100人が口をそろえても、どうしても私は好きになれなければ、それはそれで仕方のないことで、無論、逆だってあります。「駄作」だと烙印を押された一冊が、とても好きだと思うこともある。そう感じるのは、自分の感性なのです。


後世に名を残す芸術家が描いた「作品」の中には、発表当時は理解されず埋没していたものも多いと聞きます。物を書く人間、物を創る人間は、社会に向けたメッセージがあったとしても・・・それをキャッチしてもらえるかどうかは、別問題なのかもしれません。それでも、何かを伝えたいから、まずは「自分のために」「自分の思うままに」、我が侭に伝えるしかない。孤独です。


寂しがりな人間は、そんな偏屈な自分を理解してもらいたいと願います。ただの一人でも、好きだと思ってくれるならば幸せなことで、その唯一の味方が自分の大切な人ならば、この上なく最高なことでしょう。・・・もしくは、大切な人に理解されずに葛藤することだってあります。


どんな手のひらにだって、チカラがあると思いたい。


それなのに私の手のひらから、ソーダの泡が消えていくみたいに、何かがつぎつぎと消えていく感じがしました。夢、希望、理想、ささやかな充実感・・・金色の粒が手を離れて、儚く消えていくばかり。待ってほしくて掬い取ろうとしても、逃げていく光。大切なものを抜き取られたように、久しぶりにまとまった涙を流しました。


しあわせな気持ち、眼を背けたい陰の部分、心に積もったよいこと、取るに足らないこと、醜さ、いとおしさ、すれ違い、めぐりあい、天にも昇るような喜び、もがき苦しむ思い。


小さな瞬間を切り取って、つむいで、つむいで。

私には、それしかないのです。

vektor

重なりそうに近づいていたことも
たしか、あったような気がする

時間やら距離やら環境やらの
様々な要素が力を加えたら

すると
あの人と私の矢印は
ある時から平行になったんだ

どこまで先を辿っても、交差しない2本の線について
ひとしきり絶望的になったあとで
でも、これ以上離れることもできないんだわと
そんな風に思えて、少し救われた気がした