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2025年8月14日 BUSINESS INSIDER

 

「なぜ戦争写真に動物がいないの?」 

 

戦後80回目の終戦記念日を前に、そんな子どもの素朴な疑問から誕生した本が出版され、注目を集めている。「戦中写真が伝える 動物たちがみた戦争」(光文社新書)だ。 

 

動物をテーマにAIでカラー化した写真をまとめた「動物たちがみた戦争」(左)。(撮影:樋口隆充)

 

【カラー画像をみる】通信手段として利用された鳩、犬を抱えて笑顔の兵士などカラー化された動物写真の詳細(全7枚) 

 

戦時中の白黒写真を、AIと当事者へのヒアリングなどを通じてカラー化するプロジェクト「記憶の解凍」で知られる東京大学大学院の渡邉英徳教授、アジア史を専門とする京都大学の貴志俊彦名誉教授がタッグを組み、毎日新聞が保有する約6万枚の戦時中写真の中から、動物が主題の写真900枚を対象に約4年かけてカラー化し、その一部を1冊の本にまとめた。 

 

戦時中の歴史検証はさまざまあるが、動物に特化した検証は珍しいという。戦後80年を迎え、当時を知る語り部たちが減少する中、動物視点の取り組みは次世代に記憶を継承する上で新たな可能性を秘めている。 

 

書籍化を進める中では、動物たちが戦地での兵士の癒しになっていたことや、戦意高揚のプロパガンダに使われていたことも見えてきた。8月14日までに横浜市内で開催された出版記念イベントで、企画に関わった2人の学者と毎日新聞の担当者が思いを語った。

廃棄指示が出た6万枚の写真、毎日新聞が秘密裏に保管

毎日新聞が戦地に派遣した特派員650人が撮影した写真6万点をデジタルアーカイブ化するプロジェクト「毎日戦中写真アーカイブ」から、軍馬や軍用犬、伝書鳩、南国の珍しい動物などが映る写真をピックアップ。貴志教授監修の下、当事者へのヒアリングや専門書の解説内容をベースに渡邉教授がカラー化を手がけた。 
 
共著者である毎日新聞の中島みゆき記者によると、アーカイブした6万枚の写真は毎日新聞が戦中から戦後にかけての混乱期を含め、保管し続けていたものだという。当時の毎日新聞は空襲での消失を避けるため、特派員が撮影した写真データの多くを奈良県内の寺に疎開させていたが、旧日本軍から終戦間際に「戦争責任追及の証拠になる恐れがある」として廃棄処分の命令が出た。 
 
この指示に対し当時の写真部長は「社員が命懸けで撮影した写真を捨てるわけにはいかない」と、本社の地下や銀行に隠す方針を秘密裏に決め、終戦を迎えた。その後は大阪本社で保管していたが、散失や劣化のリスクを抱えることから、戦後80年を迎える2025年を目標にデジタル化するプロジェクトが2021年に社内で立ち上がった。 
 
デジタル化する上で毎日新聞は当初、貴志教授とともに「特派員の足跡を追う」をプロジェクトのテーマを据えていたが、研究成果の発表イベントに参加した子どもから冒頭の質問が出たことなどを機に、「戦争と動物」という新テーマが加わった。 
 
中島記者が自身のSNSで「毎日新聞は1960年代まで(記事や写真を届ける手段として)ハトを使っていた」と投稿したところ、多くの人が関心を示したことも動物をテーマにする上で後押しに。AIを使ったカラー化で、若年層の関心を掘り起こしている渡邉教授をメンバーに加え、作業が始まった。
 
毎日新聞のアーカイブ写真から選んだ動物写真を渡邉教授らがAIツールを使い、カラー化。AIが複数のカラーパターンを提示した場合は、専門書の記述を基に、アメリカ・アドビの写真編集ソフト「Photoshop」で部分的に色調を調整し、当時の色を再現した。 
 
こうしてカラー化した写真は、貴志教授が歴史学者の視点からフィードバックし、時にはSNSに寄せられたコメントやイベント来場者の意見も反映するなどして、カラー化の作業を地道に進めていった。

伝書鳩、警備犬....毛皮供出で「街から野良猫が消えた」

「戦争では兵士や武器以外にも物資を運搬するために軍馬が必要だが、今まで馬の役割に、われわれはほとんど注目してこなかった。戦争に関わった動物たちが写真に残されていることは非常に衝撃だった」 

 

こう振り返るのは貴志教授だ。貴志教授曰く「戦時中に使用されていた動物は主に馬、犬、鳩の3種類だ」という。 

 

第一次世界大戦では、鳩を通信手段に、犬を夜間警備にそれぞれ活用することが主流になった。日本も欧州を参考に、1920年代から徐々に採用し、満州事変を機に戦場に本格導入。中国戦線では軍隊同士の近距離通信に鳩を使っていたことが毎日新聞のアーカイブ写真から分かっている。 

 

日本固有種では対応できなかったため、適した種類の犬や鳩を海外から輸入していた。軍需品扱いのため、購入数などを国会で審議していたほどだった。 

 

太平洋戦争末期の1944年末には、戦況の悪化と戦線の拡大で日本国内は深刻な食糧・物資不足に陥った。 

 

満州と旧ソ連国境付近の寒冷地で展開する関東軍向けに、政府は「各家庭で飼う犬・猫の毛皮を供出せよ」という指令を出し、野良猫なども含め街から動物が一斉に消えた。前線で展開する軍では、食糧不足で軍用犬や軍馬を食べることもあった。 

 

「金属を各家庭から提供した話は有名だが、動物がそのような対象になっていたという話はあまり知られていない。当時の動物は、愛玩動物であると同時にいざとなったら食べる、食料としても見なされていたということは認識すべき事実」(貴志教授)

動物の出征式も。戦意高揚プロパガンダに使われた動物

カラー化を進める中で、どんなことが見えてきたのか。
 
樋口 隆充 / Takamitsu Higuchi[Business Insider Japan記者]