2025年6月28日 熊本日日新聞
熊本市の住宅で今月2日、150匹もの猫の死骸が見つかり、市は動物愛護管理法の虐待罪に当たるとして、動物愛護団体会員の女性を熊本県警に刑事告発し、受理された。女性は飼育能力以上に猫を引き取っていたとみられるが、猫との関わり方や飼育が不適切で、近隣住民に迷惑をかけたり、「多頭飼育崩壊」に陥ったりする可能性は、いつでも誰にでもある。市動物愛護推進協議会長で獣医師の長尾孝之さん(58)=東区=と、協議会委員で愛玩動物看護師の増子元美さん(62)=中央区=に、地域でできることや動物との共生について聞いた。(聞き手・関本百合恵)
動物病院で診察を受ける保護猫=熊本市東区(熊本日日新聞)
「多頭崩壊」地域で異変に気付いて 熊本市動物愛護推進協議会長・長尾孝之さん
「動物福祉」の重要性について話す熊本市動物愛護推進協議会長で獣医師の長尾孝之さん=17日、熊本市東区(熊本日日新聞)
-熊本市の住宅で多数の猫の死骸が見つかりました。
「熊本市動物愛護センターや警察は、外部からの情報提供や相談段階では強制的に介入できない。どうすれば被害を食い止められたのか、推進協議会でも考えたい。飼育環境にもよるが、1人が適切に飼える猫の頭数は2~3匹。飼育可能な頭数を把握することが大切で、それを超えると多頭飼育崩壊につながる可能性がある」
-猫の多頭飼育崩壊が度々問題になります。
「メスは発情期のオスと交尾すると排卵し、高確率で妊娠する。決まった時期に発情期がある犬と異なる点だ。猫は一度に4~8匹出産し、2カ月ほどで再び妊娠できるため短期間で数が増えてしまう。頭数が多いと譲渡先を探すのも難しくなる。衛生環境の悪化や、病気に気付くのが遅れるといった懸念もある」
「繁殖を望まないなら避妊去勢手術を必ずしてほしい。メスは生後6カ月で妊娠が可能で、早期の処置が必要だ。オス、メスともに手術によって病気のリスクや発情期特有の鳴き声、マーキングの減少といったメリットもある。経済的にすぐに手術できない場合は、オスとメスを分けて飼育する、オスだけでも先に去勢するといった対応を。室内飼育の徹底も肝要だ」
-地域でできることはありますか。
「多頭飼育崩壊の場合、飼い主の多くが動物を愛する人だが、気付いた時には増えすぎて対応できなくなっている。周囲の人が、猫の出入りが多い、鳴き声や異臭がするなど予兆や異変に気付くことが重要だ。飼い主が高齢や体調不良で適切に飼育できない、鳴き声やふん尿で近隣に迷惑をかけているなどの理由で誰にも相談できず、問題を抱え込むこともある。地域から孤立することが深刻な問題だ。飼い主もペットも不幸になる前に、できることはあるはずだ」
「野良猫に餌を与えて無秩序に頭数が増えたり、避妊去勢手術がかわいそうだと放置したりすると、健康で幸せに暮らす『動物福祉』が守られなくなる。動物が本当に幸せに生きるために何をすべきか、私たちは改めて考えなければならない」
最低限の知識持ち最期まで責任を 愛玩動物看護師・増子元美さん
猫の多頭飼育崩壊の現状を語る愛玩動物看護師の増子元美さん=17日、熊本市東区(熊本日日新聞)
-多数の猫の死骸が見つかったのは、動物愛護団体のメンバー宅でした。
「愛護団体の関係者であっても、このようなことが起きてしまうと知り衝撃を受けた」
「愛護、保護団体を探す時は、行政に団体登録しているか確認するのが基本だ。さらに、動物の管理や譲渡法を詳しく聞き、代表の考えや長年の活動実績も調べる必要があるだろう」
-多頭飼育崩壊の現場で支援を続けてきました。
「多頭飼育崩壊の疑いがある場合、どんな飼い方をしているのか、まずは飼い主に話を聞かなくてはならない。私は飼い主に寄り添いながら、何が問題で、どうしたら解決できるか一緒に考えてきた。話したがらない人や、『困っていない』と拒否する人も少なくない。まずは猫のトイレの数を増やしてもらったり、避妊去勢手術を拒む人にはケージを貸してオスとメスを分けてもらったりしている」
「避妊去勢手術にはお金がかかる。飼い始めてから大変さを実感し、自分には飼えないと手放す人もいる。『今の状態で猫は幸せですか』と問いかけ、飼い主に自ら課題を解決してもらうようにしている。単に猫を取り上げるだけでは根本的な解決にならず、飼い主は同じことを繰り返す」
-動物との共生で大切なことは。
「誰もが動物の習性や飼育に必要な最低限の知識を持つことだと思う。例えば、野良猫に餌を与える人がいるが、猫は餌場として居着き、繁殖して野良猫が増える。ふん尿や鳴き声で地域住民が困ると、認識しないといけない。動物に関わる人は、その動物に関する知識を持つ責任が伴う」
-ペットを飼う時の心構えは。
「『動物福祉』を学んでほしい。ペットは家族の一員。最期まで飼育できるか、自分に何かあった時は代わりに飼える人がいるか、あらゆることを想定して備えるべきだ。今、ペットを飼っている人は、動物が心身ともに健康で幸せでいることが守られているか、改めて問い直してほしい」