「大人になったら動物を助けたい」と涙ぐむ子どもも…杉本彩が10年以上力を注ぐ「命の授業」 | トピックス

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2025年4月15日 FRaU

 

「しんどい思いをした犬や猫を助けたい」 「将来、獣医師になって動物たちを助けたい」 

 

【写真】杉本彩さんが「命の授業」で子どもからもらったかわいくて感動的な手紙 

 

これらの声は、俳優の杉本彩さんが2014年2月に『公益財団法人動物環境・福祉協会Eva』を設立した当初から始めている、子どもたちに向けた動物や命に関する活動で上がった子どもたちの素直な言葉だ。 

 

写真提供/公益財団法人動物環境・福祉協会Eva

 

長野県松本市の繁殖事業者の事件など、動物虐待事案の告発や、動物福祉向上に関する普及啓発活動を積極的に行っている杉本さん。そんな杉本さんが自ら執筆し、動物に関する問題を伝える連載では、子どもたちに向けた「命の授業」の活動とその想いについてお伝えする。

10年以上続けている「命の授業」

当協会Evaは、設立当初から子どもたちに向けた“動物を通じた命の授業”を行っている。『いのち輝くこどもMIRAIプロジェクト』と称したこのプロジェクトは、小・中学校に直接お邪魔して行っている。 

 

こどもたちの豊かな人間性を育み、いのちや気持ちを大切にする思いやりのある社会の実現に向け、日本の動物たちが置かれている現状や、動物愛護センターがどんなところか、どうしてセンターに動物はやってきてしまうのか、それらを伝えながら、動物を飼う責任について考えてもらう。また、それぞれの地域の状況も交えながら、より動物問題を身近に感じてもらえるよう授業を展開している。

 

例えば、大阪市の小学校で行った際には、犬猫を迎える場合の例として、①ペットショップから②ブリーダーから③大阪市の「おおさかわんにゃんセンター」から④民間の動物愛護団体からなど、具体的な場所を出して紹介した。そして、そのあと、その地域で大きな動物虐待事件があった場合、「ここでも犬や猫がとても辛い思いをした動物虐待事件がありました」といった事実に基づいた事件を紹介しながら、「動物虐待ってどういうことをいうのかな?」という話しにつなげていくこともある。 

 

30分程度の授業の後のワークショップでは、4、5名ずつのグループに分かれ、授業で聞いた内容をもとに命についてみんなで一緒に考え、発表してもらい意見交換を行うという進行だ。私たちが子どもたちに伝えたいのは、人間も動物もこの世に生を受けたものはみな使命を持ち、生まれてきた意味が必ずあること。人も動物も、かけがえのないたった一つの尊い命であること。この授業を通じ、動物も、友達も、兄弟も、そして自分自身も大切にできる、そんなやさしい気持ちを育んでほしいと願っている。 

 

子どもたちの成長はあっという間だ。心が柔軟で、スポンジのように大切なことを吸収できるこの間に、命を尊び慈しむ心を養えば、やさしさや思いやりなど豊かな心を持った大人になってくれると信じている。大人になり多くのことを選択できるようになった時、子どものころにこの授業で学んだことを、心の片隅から引き出してもらえるような、そんなプロジェクトにしていきたいと考え、長年取り組んできた。 

 

先日、Eva設立3年目の今から8年前に、このプロジェクトに応募してくれた小学校の先生から再び応募があり、現在着任されている小学校へ伺った。先生から、当時、授業をさせていただいた生徒さんが成人になったと聞き、とても感慨深い思いになった。

 

大人になった子どもたちが、もしも自らの責任で「ペットを飼う」という選択をすることになったとき、行政の動物愛護センターや民間の動物愛護団体から、保護犬や保護猫などを迎えるという、命にやさしい思いやりのある選択をしてくれることを願っている。

動物虐待をなくすには子どもたちがカギになる

そんな願いを込めて行う授業だが、先日、初めて小学2年生を対象に行った。大抵は小学4年生から6年生が対象となることが多い。子どものいない私にとって、小学2年生の理解力がどれほどなのかまったく想像もつかない。そのため最後まで飽きずに話しを聞いてくれるのか心配していたが、授業を初めてすぐにそんな不安は吹っ飛んだ。とにかく元気で、好奇心旺盛。その反応は素直でまっすぐだ。 授業の最後にはいつも、私の愛犬が保護された当初の写真と、私のもとに来て数ヵ月経った写真を見てもらう。

 

明らかに印象の違うビフォーアフターを見て比較してもらうのだが、アフターの写真が出ると、みなが一斉に「わぁ」と声を上げた。その変化に対する驚きがすごかった。写真を見ながら、どんなふうに変わったか、何が違うのか、子どもたちに問いかけてみる。すると子どもたちは、激変した姿のことだけでなく、「癒されたみたい」「笑ってるみたい」と動物の気持ちを察するようなコメントをしてくれる。 

 

言葉のボキャブラリーは少なくても、その言葉や表情から感受性の豊かさが伝わってくる。ビフォーアフターの写真を見せるまでの過程では、動物も私たち人間と同じように、さまざまな感情を持っていること、言葉の話せない動物がどんな気持ちでいるか想像してほしいと伝えている。そんなメッセージが子どもの心に届いていると感じる瞬間だ。小学2年生は、私が想像していたよりもはるかに理解力が高いし、動物の気持ちに寄り添うような「共感」の気持ちも表してくれる。この時期からの道徳教育の大切さを、私自身が学ぶことのできた授業だった。子どもたちが興味を示す動物の、その命を通じて道徳教育を行うことの有効性を改めて感じる。

 

子どもたちにとって、動物は自分より弱い存在だ。この社会で苦しんでいる動物がいることを知ると、動物を守りたいという感情が芽生える。直接動物とふれあわなくても、社会問題となっている動物のネグレクトや虐待など、悪環境の中で苦しんでいる動物の話しを聞くことで、その痛みを想像する。想像は、共感する気持ちを育んでくれる。また、人の行動により動物が不幸にも幸せにもなるということを知り、自らの責任について考えるきっかけとなる。そして動物を飼うということの重みを感じてくれる。

涙ながらに動物への思いを語る子どもも多い

小学校高学年になると、そんな気づきをしっかりとした言葉で述べてくれるようになる。 

 

「動物を飼うことを親に反対されていたけど、反対されている意味がわかった。簡単なことじゃないから、自分が責任持って面倒を見られるのかきちんと考えたいと思う」といった想いを聞いたときはとてもうれしかった。伝えたいことがしっかり伝わったと感じる嬉しい瞬間だ。 

 

また、悪質なペットビジネスの不適切な繁殖や無責任な売買という、現代社会が抱える問題を認識することで「自分は動物を苦しめないためにどうすべきか」という倫理的な判断や行動について小学2年生の生徒さんも考えてくれるようになる。ある生徒さんは「しんどいおもいをしたこをたすけたり、かぞくにむかえたいとおもいました」というような感想をくれた。 

 

さらには、ボランティア活動や社会貢献など、誰かのため、何かのための奉仕活動への関心に繋がることもある。子どもたちの中には、法律について、こう変えればいいとしっかりした意見を話してくれる生徒さんもいる。また「将来、獣医師になって動物たちを助けたい」と涙を浮かべて熱い決意を話してくれる生徒さんもいた。他にも、今もとても印象に残っているのは、男の子が涙を堪えながら、「僕が大人になったらお金持ちになって動物たちのために施設を作って助けてあげたい」と、小さなからだで大きな熱い夢を伝えてくれた。それは、夢を超えた決意のようにも感じたことがある。

 

子どもたちの、溢れてくる純粋な気持ちと、やさしくてたくましい表情が今も忘れられない。あの時の子どもたちは、今どうしているのだろうと、ふと考えることがある。もしかしたら、将来、日本の動物福祉をリードする存在になってくれるかもしれないし、動物愛護に限らず、社会貢献の精神が育まれたステキな大人のスタートを切っているかもしれない。

「自分だったら」「なぜ起きているのか」を考える力

写真提供/公益財団法人動物環境・福祉協会Eva
 
このプロジェクトを通じて、飼い主の責任、悪質なペットビジネスの問題、さらには、動物園や野生動物カフェでの不適切な展示やふれあいについて知ることで、目の前にあるものを簡単に当たり前のこととして享受するのではなく、「考える」と いう習慣を身につけてほしいと思う。 
 
言葉の話せない動物の目線になって、「自分だったならどう感じるだろう」と考えたり、いま目の前にある物事の背景について、どうしてこういったことが存在しているのかを「想像する」こと。 
 
具体的にいえば、自分が生まれて間もない猫だったとして、まだ母親の母乳やぬくもり、兄弟といることの安心感が必要な時期に離され、箱に入れられ輸送され競りにかけられる……。気づけばペットショップのケージの中で明るいライトに終始照らされ、知らない人に見られ、触られる……。そんなことは果たして幸せなのだろうか。 
 
また、野生動物にも思いを巡らせてほしい。そのカフェの止まり木に短い鎖で繋がれているフクロウや、室内にいるふれあい動物園のナマケモノが本来生息している環境はどういった所か。少し考えたら分かるはずだ。それは人間以外の多種の動物にとってやさしいものなのか、その不快と恐怖と常に満たされない行動欲求からくるストレスを想像してみてほしい。 
 
こうして子どもたちが社会問題に敏感になることで、自分を守ることにも繋がる。正しい知識を身につけると、今まで見ていた物事の見え方や捉え方がからりと変わる。そのことも子どもたちに実感してほしい。
 
私たちEvaは、『いのち輝くこどもMIRAIプロジェクト』が、こどもたちの豊かな人間性を育むための基盤を築く手助けとなることを願い、これからも取り組んでいきたいと思う。