動物虐待罪の厳罰化に11万人以上の署名、今こそ軽すぎる現状の判決を変える時【杉本彩さんコラム】 | トピックス

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2025年3月31日 福井新聞ONLINE

 

当協会Evaが呼びかけた「動物虐待罪の厳罰化を求める請願署名」に、多くの方がご賛同くださった。昨年7月から集め本年2月末日に締め切った署名は、わずか8ヶ月で11万2千人以上の真筆署名を集めることができた。これはひとえに、思いを同じくする皆様のご協力のおかげだ。SNSで署名を呼びかけてくださった方、ご家族や友人や知人から、また職場でも署名を集めてくださった方、街頭に立って道行く人々に呼びかけ、署名運動をお手伝いしてくださる方もおられた。SNSで、偶然目にした皆様のご協力には胸が熱くなった。 

 

犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟会長、自民党の逢沢一郎議員と面談

 

署名に添えられたお手紙には、動物たちへの純粋な愛情と、動物たちが守られる社会の実現を願う強い思いが託されており、一筆一筆の重みをひしひしと感じた。この重みが国会議員の皆様に伝わるよう、次の動物愛護管理法改正に向けてしっかりロビー活動していきたい。前回2019年の動物愛護管理法の改正でも、当協会は署名運動を行い、皆様に頂いた署名と共に徹底的なロビー活動を行い、それが大きな後押しとなり、動物愛護管理法第44条1項の動物虐待の殺傷罪について、法定刑の倍以上の引き上げが実現した。しかし、同法44条2項については、1年以下の懲役、または100万円以下の罰金にとどまった。それでは到底実刑になることはなく、動物の遺棄・虐待の罪を犯したものが、法改正後も厳正に裁かれることはなかった。

 

 

私たちが遺棄・虐待罪の厳罰化の必要性を強く感じたのは、これらの罪を犯したペット業者の公判を傍聴し続け、その判決があまりにも軽く、納得いくものではなかったからだ。殺傷罪は大きく厳罰化したものの、これらの業者が問われてきたのは、殺傷罪ではなく、ほぼ虐待罪だ。業者による虐待事件は、大抵が酷い飼育環境下で長期に渡るネグレクトの末に衰弱させたり死なせている。 

 

しかし、どう考えても、一般的な感覚では死んで当然という酷い行為でさえ、殺傷罪ではなく虐待罪で裁かれている。殺すことを楽しむような猟奇的な殺傷でない限り、第2項の虐待罪でしか裁かれないのか、とも受け取れる司法の判断だ。反省なきペット業者が今も動物虐待という大罪を犯し続け、たとえそれが検挙されても、その罪に見合った適正な判決でなければ虐待の抑止にならない。この現状を憂い、納得いかない数々の判決に怒りを感じ、この度の署名運動を決意した。 

 

この運動を起こすきっかけとなったのは、このコラムでも度々お伝えしてきた長野県松本市の劣悪繁殖販売業者が起こした災害級の動物虐待事件だ。452頭の犬に対する虐待(ネグレクト)と、無資格者による無麻酔帝王切開の罪に問われた犬の繁殖業者による動物犯罪史上稀に見る凶悪事件。しかし、その判決は懲役1年(執行猶予3年)罰金10万円という軽微なものだった。山中に建てられた簡素で不衛生なプレハブ犬舎には、4段にも積み上げられた小さな金網ケージに犬が2、3頭ずつ入れられ、堆積した糞尿がケージの受け皿から溢れ、下の段にいる犬に垂れ流され、ハエがまう大変不衛生な状況だった。それなのに殺傷罪と虐待罪にも関わらず、懲役1年に執行猶予がつくという軽微な判決となってしまった。

 

そしてこちらも以前、コラムでお伝えしたことがある事件だ。埼玉県毛呂山町の犬の繁殖販売業者が起こした動物虐待事件は、繁殖のために飼育していた犬を「繁殖に使えなくなった犬を生かすと経費が掛かる。行き場のない犬に対する責任を取るつもりだった」と小動物用の小さなかごに閉じ込めビニール袋で密封し窒息死させた。どれだけ苦痛だっただろうか。こんなにも悪質極まりない犯行で、しかも犯行を認めているにも関わらず、この件も罰金40万円の略式処分という信じ難い判決だった。また施設内で衰弱した犬や、複数頭の犬の死体も発見されたが、虐待罪に関しては、不起訴となってしまった。 

 

そして、動物保護団体でも虐待事件は起こっている。千葉県東金市にある保護団体だ。排泄物が堆積した劣悪な環境で多種多様な動物を飼養し虐待した事件では、たったの罰金10万円の略式命令。犬や猫の他、コンゴウインコやリスザル、ミーアキャットなどのエキゾチックアニマルが混在する現場は、糞尿がいたるところに堆積しているなど、酷い環境だった。規定以上の動物を保護していたが、動物愛護団体の届け出も自治体にはされていなかった。現在、別の場所に移転し活動を継続している。動物愛護団体が法律違反をし、たとえ罰金以上の刑に処せられても取消しが出来ないという、無法状態の問題もある。

 

そしてもう一つ、昨今の猫ブームと言われる時代の裏側で、多くの猫が犠牲になっている。それは埼玉県さいたま市の、猫の繁殖販売業者が起こした虐待事件だ。獣医師の診療を受けさせるなどの適切な保護をせずに猫を虐待していた。しかし、こちらもたった罰金30万円の略式処分。呼吸器の疾患や結膜炎、皮膚炎などに罹患していても病院には連れて行かず、オーナーの判断で投薬していた。猫の購入者からも「すぐ病気になってしまった」 などの相談が警察に複数寄せられていた。先日、他の猫への虐待について再捜査後起訴され裁判になったが、こちらもたった罰金20万円で終わった。 

 

動物虐待の一番の被害者はもちろん動物であるが、動物虐待に対する受け止め方や対応は、社会全体の倫理観を反映するため、人の安全な暮らしや幸せに影響を与える重要なものだ。厳罰化することは、動物虐待を抑止するためにも、動物の尊厳を守るためにも必要なのだ。また、動物虐待は人間への危害という他の犯罪行為と関連していることがあり、人への危害を未然に防ぐためにも、早期の捜査が重要だ。さらに、厳罰化は虐待行為が許されないという強いメッセージにもなり、身近な動物の命はもとより、自然の中の動植物や海洋生物など、すべての命を軽視しない健全な社会を築くためにも必要だと感じる。 

 

今の法律で、動物を遺棄、虐待した場合の罪は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」とされているが、当協会は、「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」に引き上げてほしいと訴えている。請願署名は、私たち国民が、直接、国に法律の改正や制定を求めることの出来る権利である。その権利や、5年に一度の法律の見直しという機会を最大限に使いたい。これまで利益のために搾取され、挙げ句の果てにはゴミのように扱われてきた動物たちの、尊い命を守るため、なんとしても厳罰化を実現していただきたい。

 

皆様もぜひ、今後改正される動物愛護法の行方を注視してください。署名にご協力くださった皆様に、心より感謝申し上げます。(Eva代表理事 杉本彩)   

 

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杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。