2024年2月2日 毎日新聞
描いた絵を額縁に入れ、絵画展の準備をする学生ボランティアら=岩手県滝沢市の岩手県立大で2024年1月31日午後2時50分、湯浅聖一撮影© 毎日新聞 提供
盛岡市の猫用品開発会社「クロス・クローバー・ジャパン」は、動物愛護団体へ寄付した人に岩手県内の学生がペットの絵を描いて返礼するプロジェクトを展開している。寄付者と学生、愛護団体が協力し、犬猫の殺処分減少につなげるのが狙い。発足から1年で絵は100枚を超え、2月に同市で絵画展を含めたイベントを計画する。関係者は「一匹でも多くの命を救いたい」と意気込んでいる。
プロジェクトは、同社の太野由佳子社長が岩手県立大(同県滝沢市)で自身のボランティア経験について講演した際、「ボランティアに興味はあるが、何をしたら良いか分からない」という声が上がったのがきっかけで発案。2022年12月から活動を開始した。
仕組みは、まず寄付の希望者が同社のブランド「nekozuki(ねこずき)」のサイトから、愛猫や犬などの写真と一緒に1口1650円(税込み)で申し込む。その写真を基にボランティアの学生がペンや油彩などでイラストを描き、メッセージを添えた上で同社を通じて寄付者に届ける。寄せられた善意は、太野社長がかつてボランティア活動をしていた動物愛護団体「動物いのちの会いわて」に全額送られる。
活動には県立大や県立産業技術短期大学校(同県矢巾町)の学生計約50人が集まった。
秋田県の実家で保護猫4匹を飼っているという県立大社会福祉学部4年の元野和香子さん(22)は絵を描くのが好きで、「自分の絵で救われる命があるなら」と参加を決めた。「ペットと飼い主家族の裏にあるストーリーを想像しながら、愛情がわくような絵になるよう心掛けている」と話す。同じく4年の勝又清馨(さやか)さん(23)は「殺処分問題を身近に感じるきっかけになった」と語る。
寄付額は2日現在、首都圏を中心に122口、計18万3000円になった。寄付者にとっては愛するペットを思って学生が絵を描いてくれるのがうれしいようで、太野社長は「助けを求める動物と、何か支援したいという人をつなげる場にしたい」と力を込める。
同社と動物いのちの会いわては22、23日、盛岡市の「いわて県民情報交流センター」(アイーナ)で「みんなで考える動物愛護」のイベントを開く。プロジェクトで学生が描いた絵109枚のうち、寄付者の承諾を得られた約70枚を展示する。
イベントでは他に、学生と寄付者の交流会や、保護犬・猫を引き取った里親による動物の「その後」を語る会などを予定。準備に携わる県立大社会福祉学部3年の夏井帆乃花さん(20)は「多くの人に殺処分について知ってほしい」と来場を呼びかけている。時間はいずれも午前10時~午後6時。入場は無料。【湯浅聖一】
財政運営厳しく、活動は綱渡り
各自治体の保健所で保護された犬や猫は、飼い主や新たな譲渡先が見つからないと殺処分される。動物愛護団体は、そうしたペットの受け皿となって殺処分の減少に大きな役割を果たす一方で、その財政運営は厳しさを増している。
環境省によると、2022年度に全国で殺処分された犬は2434匹、猫は9472匹の計1万1906匹。愛護団体と連携した譲渡機会の拡大などで殺処分数は減少傾向にあり、今では10年前の約10分の1になった。
しかし、愛護団体の運営費は寄付などに支えられており、活動は綱渡りだ。ボランティアによる一時預かりを含め犬猫計約350匹を世話している「動物いのちの会いわて」の下机都美子代表は「高齢の犬猫もいて、病気の治療やワクチン接種、不妊去勢手術など医療費の負担が最も大きい」と窮状を明かす。
最近は光熱費の高騰もあり、さらに経費はかさんでいる。猫は寒さに、犬は暑さに弱いため、施設内の冷暖房が欠かせないからだ。同会では光熱費が月50万円以上になり、電気代だけでも高騰前から2~3割増の約30万円に上がったという。
カレンダーなどのグッズ販売に力を入れ、運営費の足しにしているものの、大きな収入源である寄付が物価高の影響で細っている。先行きに不安を募らせているだけに、同会にとって今回の学生ボランティアプロジェクトはありがたい存在だ。
同会によると、猫で試算した場合、プロジェクトの寄付1口(1650円)で1匹当たり6日分の餌代▽5口で基本健康診断代▽10口で2回分のワクチン代▽20口で1匹の不妊去勢手術費用――を賄える計算だという。
下机代表は願う。「動物を捨てる人間がいる限り、不幸な命は後を絶たない。しかし、そんな動物を救えるのも人間。大切なのは動物も人間も同じ命であること。プロジェクトが、若い人にとって動物愛護について考えるきっかけになればうれしい」