2023年10月20日 毎日新聞
悪質な動物繁殖・販売業者らに対する登録取り消しが2017~21年度の5年間に全国で5件にとどまることが、環境省への取材で判明した。業務停止命令は同期間でゼロだ。こうした処分は都道府県や政令市が行うが、専門家は公務員獣医師の不足で手が回っていない可能性を指摘する。
環境省によると、21年度までの5年間に全国の都道府県などが動物愛護法に基づいて営利目的の業者に立ち入り検査した件数は10万8953件。検査で問題があれば勧告し、従わなければ施設名を公表する措置命令が行われる。それでも改善が見られなければ、営業に必要な登録の取り消しや業務停止命令に至るのが一般的な手続きだが、その前段階の勧告が65件で立ち入り検査に比べて0・06%とはるかに少ない。
一方で警察庁によると、全国の動物虐待事件の検挙件数は22年に166件と10年間で4・6倍に増えている。業者以外が関与する事件も含まれるが、大阪府では23年、病気やけがをしている犬10匹を繁殖施設に放置したとしてブリーダーの女性(58)が動物愛護法違反(虐待)の疑いで逮捕、起訴されている。
なぜ警察と自治体の動きに差があるのか。背景に指摘されているのが、自治体に勤務する獣医師の不足だ。農林水産省の統計によると、動物病院などで犬や猫の診療に携わる獣医師は20年時点で約1万6000人と04年の1・6倍に増えているのに、公務員獣医師は約9500人でほぼ横ばいだ。ペットブームの影響があるとみられ、年間10人程度の獣医師を募集する大阪府でも採用数が満たない年が続いているという。
日本獣医生命科学大(東京都)の水越美奈教授は「行政処分などを担当する職員には獣医師免許が求められる。自治体はマンパワーが足りず、立ち入り検査や他の業務にも追われ、一つの事案に満足に対応できずにやり過ごしているケースもあるのではないか」と指摘する。【横見知佳】