動物用医薬品の臨床研究、国が初のルール設定…「倫理審査委が妥当性確認」など8要件 | トピックス

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2023年5月12日 読売新聞

 

 

 動物用医薬品の臨床研究を巡り、農林水産省が都道府県や日本獣医師会などに、医薬品医療機器法(薬機法)に違反しない適正な研究の基準を示す通知を出していたことがわかった。国が動物用の臨床研究のルールを定めるのは初めて。ルールがない中、法に抵触する恐れがある研究が長年行われていた問題も判明しており、透明性を確保し、適切な創薬環境を整備する狙いがある。(伊藤孝則)

 

 臨床研究を巡っては、鳥取大農学部共同獣医学科の男性教授(3月末に退職)が2014~21年度、犬猫用がん治療薬の未承認の試薬を全国の延べ791の動物病院に有償提供し、ペットなどに投与されていたことが読売新聞の3月26日の報道で明らかになった。

 

 提供先が多数で長期間に及ぶ上、研究に必要な症例報告書が一部で提出されておらず、農水省は読売新聞の取材に「薬機法が禁じる未承認薬の販売にあたる恐れがある」と指摘。一部の動物病院がホームページに研究ではなく、正規の治療薬と誤解しかねない記載をしていたこともわかった。

 

 しかし、臨床研究法で国への届け出が義務づけられている人間用と違い、動物用にはルールがなく、研究は農水省が把握しないまま21年3月末で終了した。

 

 通知は今年4月20日付。農水省は通知で、臨床研究で未承認薬を使う場合に薬機法違反とされる範囲がこれまで不明確だったと言及。「臨床研究が無秩序に実施され、国民の理解が得られなくなるような事態が起きた場合には、研究の実施自体が困難になる恐れがある」との認識を示した。

 

 その上で、未承認薬を提供しても薬機法に違反しない「妥当な臨床研究」と認めるための八つの要件を提示。▽中立的な立場で研究の審査を行う倫理審査委員会などが計画の妥当性を確認▽症例数や未承認薬の使用回数などの実施方法や期間が合理的に設定され、提供量が必要な範囲内▽飼い主の費用負担は、営利目的とみなされない範囲内――などすべての要件を満たす必要があるとした。

 

 また、研究の透明性を確保するため、飼い主が確立した治療法と誤解しないよう説明して同意を得ることや記録の適切な保管なども求めた。薬機法の適用で判断に悩む場合、農水省への相談を呼びかけている。

 

 通知は都道府県のほか、日本獣医師会、公益社団法人「日本動物用医薬品協会」に出した。

 

 農水省は取材に対し、通知を出した理由について「これまでも関係機関から要望を受けていた。内部で検討した結果、出すことにした」と説明。通知で「現時点での暫定的なもの」とし、必要に応じて、内容の整備を図る考えを示した。

 

 獣医師の田村豊・酪農学園大名誉教授は「曖昧だった臨床研究の適切な枠組みが示され、創薬現場としては研究しやすくなった」と話した。動物用医薬品のコンサルティング会社を経営する氏政雄揮・獣医師は「基準が明確化された意義は大きい。さらに法整備されれば、臨床研究の透明性が高まり、研究ニーズも増えるのでは」とする。

 

◆臨床研究=製薬会社や大学の研究者らが試薬を開発し、実際に投与するなどして効果を調べる。治験(臨床試験)の前段階にあたり、動物用医薬品の場合、農林水産省に届け出て実施した治験で有効性や安全性が認められると農水省が薬事承認し、製造、販売が可能になる。