2022年5月7日 福島民報
県の家畜保健衛生所や食肉衛生検査所、動物愛護センターなどに勤務する獣医師が不足している。牛、豚、鶏など家畜の病気予防と治療、安全な食肉提供への影響が懸念される。畜産業の健全な発展や公衆衛生向上のため、人材確保を急がなくてはならない。
国内で豚熱や高病原性鳥インフルエンザの感染が相次ぎ、県内でも危機管理体制の強化が求められている。獣医師はワクチン接種などの防疫対策や発生時の動物の処分に当たる。食肉の検査も担う。さらに、ペットブームの中で動物保護にも努めており、果たすべき役割は増している。
県の獣医師は四月一日現在、九十五人で定数の百五人より十人少ない。このうち三十一人は今後十年間で六十歳を超える。退職者の増加が見込まれる一方で、新規採用は進まず、二〇二一(令和三)年度は募集十八人に対して三人にとどまった。人員不足を退職者の再雇用でしのいでいるのが現状だ。
農林水産省によると、全国で毎年約千人の獣医師が誕生している。半数近くが犬や猫などを扱う民間の動物病院に勤め、公務員になって家畜などを診るのは二割を下回る。さらに首都圏に偏在する傾向があり、地方の自治体間で人材確保に向けた動きが激しくなっている。
県は就職希望者を増やそうと、学生に畜産業や食品衛生に貢献する仕事の魅力を発信してきた。家畜保健衛生所では学生のインターンシップを受け入れたほか、視察研修を企画した。リモート開催となった昨年の研修には十九人が参加した。しかし、学生の多くは他県の事業とかけ持ちで、なかなか就職に結び付かなかった。
県は来年春に向けた今年度の採用試験で要件などを見直した。対象年齢を「四十五歳以下」から「五十八歳以下」に緩和した。さらに教養試験を廃止し、適性や人物評価を重視する内容とした。これにより二日間の試験日程を一日に短縮した。受験できる日時も一回追加し、十月までに計三回実施するなど受験しやすい環境を整えた。
要件を見直しただけでは十分と言えないだろう。宮城県は昨年三月に打ち出した獣医師体制の整備計画で、採用予定の学生に返済不要の奨学金を給付する特典を盛り込んだ。担当者は「他県よりも優遇しなくては人が集まらない」と説明する。全国では既に二十九道県が整備計画を立てている。本県は策定中で、近く公表する予定だ。優位性や独自性を示し、人材難を乗り越えてほしい。(角田 守良)