「1頭でも」引退馬を救いたい 大半行方不明、ホースシェルターの挑戦 | トピックス

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2020年10月20日 京都新聞







午前9時。艶やかな青鹿毛のサラブレッドが朝の運動のため、職員に引かれて馬場へ姿を現した。ゆっくりと歩を進め、時折、あくびをしてリラックスした様子。馬房内ではごろんと寝転がる馬もいる。ファンファーレや大歓声に包まれる競馬場とは真逆の、穏やかな雰囲気が漂う。



ここは、けがなどで引退して行き場を失った馬の緊急避難所・ホースシェルター。滋賀県栗東市に昨春開設された。運営する「日本サラブレッドコミュニティクラブ(TCCJapan)」は乗馬や馬の世話を通じて心身を癒やすホースセラピーとともに、引退馬の一時保護を行う。月4千円の一口オーナーを募り、一定数集まれば全国の牧場や乗馬クラブに預け、馬のセカンドキャリアを確保する。 


  世話を担当する前川侑子さん(32)は「鍛えられているので闘争心が強いまま。かんだり蹴ったりする馬もいる。まずは信頼関係を作ることが第一」。指示に従ったときに目いっぱい褒めて、なでる。馬も次第に心を許し、すり寄ってくる。


  競馬界では毎年約6千頭が引退し、3~4歳で厩舎(きゅうしゃ)を出される馬も多い。だが繁殖用や乗用として余生を過ごすのは一握りだ。大半は「行方不明」になっている。山本高之代表(40)は「乗馬クラブなどに引き渡されたとしても、その後は行方を追えない」と明かす。山本代表によると、引退馬の多くは馬肉としてドッグフードなど動物用の餌のほか、食用にもなっているという。

 日本中央競馬会(JRA)通算100戦という史上8頭目の偉業を果たした「スズカルパン」は引退後の今年5月、シェルターに預けられた。9年間を共にした厩務(きゅうむ)員の高橋一さん(41)は「シェルターに預けていなければ、今頃どこで何をしているのかも分からなかった。できる範囲で1頭でも救えたと思うと少し気持ちが晴れた」と打ち明ける。


  高橋さんはこれまでも数多くの競走馬を見送ってきた。引退後の行き先について葛藤は常にあったが、なすすべがなく気持ちを押し殺してきた。引退馬の問題にどう向き合っていくか現在も悩み続けている。「先輩の厩務員に『引退馬の行き先を追っても仕方ない』と言われ、これまでは話題にするのもタブーだった。でも今は、この問題を世間にオープンにすることが解決への第一歩だと思う」 

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 JRA栗東トレセンがある「馬のまち」栗東市に「TCCセラピーパーク」ができて1年が過ぎた。一線を退いた競走馬の支援に関わる関係者たちの声を交え、引退馬の現状や課題を探る。