デイリー新潮 3/24(金) 8:00配信

一家に生まれた赤ん坊と触れ合いたい
ゴールデンレトリバー。しかし、近寄る度
に大泣きをされる。見かねた飼い主がラ
イオンのタテガミの被り物をプレゼント。
それを付けると、幼児は笑って手を伸ば
した――。
世界中で話題を呼んだアマゾンのCM。
レトリバーの「人との親和性」を改めて知
らしめるものだったが、それを覆す事件
の“現場”は、東京・八王子市の中心部
から車で20分ほど。斜面を切り開いて造
られた住宅地の中に位置する、60坪ほ
どの大きさの一軒家である。
注意深く見れば、玄関脇の雨どいには
「猛犬に注意!!」と書かれたステッカーが
貼られており、自家用車の窓には犬型
のステッカーが。複数ある車止めの縁
石も、犬の形のそれだ。
ありふれた愛犬家一家の光景。それが
“一転”した悲劇の3日後、インターホンを
押すと、被害者の祖父であり、加害者とも
なった家の主がドアをわずかに開け、
「気持ちの整理がまだ付いていないので
、勘弁してください。すみません……」
と述べると、ドアを閉じた。
後ろでは、キャンキャンと吠えたてる犬の
鳴き声が響いていた。
「これほどやりきれない事件は珍しいと
思いますよ」
と全国紙の社会部記者が言うこの
「噛み殺し」事件。発生は3月9日の夕刻
のことだった。
犠牲となったのは安田翠(みどり)ちゃん
。祖父母宅から車で20分ほど、同じ市内
のアパートに母親と暮す10カ月の女児だ。
木曜日の朝、いつも通り保育園に預けら
れた翠ちゃんは、程なく発熱。仕事中の
母親は、引き取りを父母(翠ちゃんの祖父
母)に頼んだのである。
記者が続ける。
「お母さんはシングルマザーで、普段から
祖父母に引き取りを頼んでいたそうです。
その日も祖父母は孫娘を連れて帰り、家
の1階リビングで遊ばせていた。この家は
、小型犬2匹と秋田犬、そして、大型犬の
ゴールデンレトリバーの計4匹を飼ってい
ました。部屋の中にはケージがあるもの
の、レトリバーは放し飼いにしていたそう
です……」
16時半。一瞬の出来事だった。リビング
をハイハイして進む翠ちゃん。そこに横か
らレトリバーがいきなり入り込み、翠ちゃ
んの頭にガブッと噛み付いたのだ。
「慌てておばあちゃんが“ダメよ!”と言う
と、犬はすぐに翠ちゃんを離したそうです
。しかし噛まれた場所が場所で出血も見
られた。すぐに祖父が119番通報し、翠
ちゃんは近くの病院に搬送されました」
レトリバーは4歳のオス。人間にして30
歳前後といったところだろうか。体重は
40キロ弱。体高は50~60センチ。一方
の翠ちゃんは平均的な発育であれば、
体重8キロ、身長は70センチといったと
ころであろう。自分より5倍も重い獣に
噛み付かれた翠ちゃんの危機は明ら
かだった。
「搬送された時はまだ息はありましたが、
2時間後に病院で息を引き取った。死因
は出血多量か外傷性ショックと見られて
います」
祖父母にとって、翠ちゃんは大切な孫
だったという。10カ月と言えば、ハイハ
イもだいぶ速くなり、つかまり立ちも始
まる時期。日々はっきりと見える成長が
嬉しくないはずはなかろうが、それが一
瞬にして断ち切られたばかりか、自らは
警察の捜査対象の身となってしまった
のである。
「所轄の南大沢署が捜査を開始。過失
致死、あるいは、重過失致死での立件
を視野に入れていると思われます。取
り調べに祖父は“むしろ臆病な犬だった”
“吠えたり噛んだりもしなかった”と述べ
ています。一方、“加害者”のレトリバー
は南大沢署に預けられ、処置を待つ身
となっています」
被害者感情を考えれば、「殺処分」も
あり得ると、さる専門家は言う。
特集「なぜ大事な乳児を噛み殺したのか
? 800万『愛犬家世帯』が慄然!
従順な『レトリバー』が狂暴化する
『5つの引き金』」より
「週刊新潮」2017年3月23日号 掲載
新潮社