アナグマの死骸写真が大炎上、害獣駆除と動物愛護の狭間2 | トピックス

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身近で起こっている動物に関する事件や情報の発信blogです。

たとえば二〇一五年九月一四日、

千葉県松戸市で逃走した紀州犬が

通りがかった女性に噛みつき、さらに

飼い主にも襲いかかる事件が起きた。

現場に急行した警察官はその状況を危険と

判断し、飼い主の許可を取った上で

銃弾十三発を発砲。大型犬を射殺した。 

このとき、所轄の警察署には批難が殺到し、

通話回線はパンク状態になった。

その際、寄せられたクレームというのが

“残酷だ、犬がかわいそうじゃないか”

“十三発も撃つ必要があったのか”

“素手でなんとかならなかったのか”という

明後日の方向を向いたものだったという。

 紀州犬が逃げたのは朝の登校時間でもあった。

あの場で射殺しなければ被害はさらに

拡大する怖れがあった――、と

警察署副所長は説明したが、射殺された

紀州犬がかわいそうだと言った人は、

飼い主がいなくて安楽死させられる犬の

里親になってね。動物愛護センターのHPを

見れば譲渡会などの案内がありますよ。 

ちなみに、この紀州犬は捕獲しようとした

警察官三人にも襲いかかり、十三発目の

被弾でようやく事切れたのだという。

だから、“十三発も撃つ必要”があったのだ。 

さらに遡って二〇一四年九月、山形県の

六〇代男性がキノコ狩りで山に入った際、

体長一・八メートルのツキノワグマに

襲われたが果敢にも立ち向かって撃退した

武勇伝が報じられると、動物愛護派から

“熊が殺されたと思うと夜も眠れない”

“かわいそうな熊のことを考えると精神状態が

おかしくなる”“キノコは熊の食べもの。

山には入るな”といった抗議が寄せられたのだ

という。 こうした屈折した動物愛護の

精神を評論家の呉智英氏は“欺瞞的な自己愛”と

切り捨てるが、撲殺されたアナグマを

かわいそう、人として許せない、残酷と

批判する人たちも同じ感性の持ち主

なのかもしれない。 農水省の発表によると、

現在、野生鳥獣(害獣)による

農作物被害金額は、年間で約二〇〇億円にも

のぼるのだそうだ。そのため、鹿や猪、

猿などを筆頭に生息数の半減化を目標に

掲げている。アナグマ(イタチ科)も、

見た目はとてもかわいらしい小動物だが、

トウモロコシや栗などの農作物を荒らし、

名前からもわかるように穴掘りが得意なため、

建造物の下に穴を掘って土台を揺るがす

などの被害をもたらす害獣なのである。

高校生が住む市でも、猟友会に限って

狩猟や駆除が認められている。

市の害獣対策担当者が言う。

「実際にアナグマによる畑や農作物の

被害を訴えてこられる住民の方は

多くいます。一般では電気が流れる柵を

家や畑に張り巡らすなどの対策が

取られているようです。鉄砲や罠などを

使って捕獲、駆除するのは、鳥獣保護法の

関係で各地方自治体に申請し許可が

下りた人でなければなりません。

捕獲した害獣は、法律に基づき

安楽死処分されます」(東スポWeb) 

高校生の家ではアナグマの駆除を市に

申請していたらしく、だから、

害獣駆除の観点から、高校生が玄関先で

たまたま見つけた害獣のアナグマを殺しても

残酷だと批判されるいわれはないのだが、

問題は、追い払うつもりでちょっと棒で

叩いたら口から血を流して死んだ

アナグマの死骸をSNSに載せたことだ。 

批判のもうひとつは、こちらの“悪趣味”とも

言える行為に向けられたのである。

テレビ朝日『モーニングバード』に

出演したジャーナリストの青木理氏が言う。

「ぼくも田舎の出だが、田舎では害獣駆除は

普通だし、動物の死骸は日常的によく見ますよ。

それをネットにあげ、ぶっ殺してやった

みたいなことを書いたのは、おそらく

身近なところに知らせるつもりだったの

でしょう。それが逆に『とんでもない』と

みんなに寄ってたかって批判されてしまった。

ネット的な事件だなと思いますね」 

高校生が写真をアップしたのは、

青木氏の言う“身近なところに知らせる”

ことが目的ではなく、単純に害獣を駆除した

手柄を誇り、自慢したかっただけなのでは

ないだろうか。書き込みにある“フルスイング”

や“ぶち殺してやった”という文言が、

それを証明しているように思える。 

その軽率な行為に、批判が及んだのだろう。

人間は人間の都合で自分たちの生活に

害を及ぼす動物を害獣と決めつけて

駆除する身勝手な生き物だが、だからこそ、

その命を決して粗末には扱わないとの

不文律があるのだ。名誉欲に駆られたか、

高校生はそれを見落とした。 

害獣駆除と命の大切さという相反するものを

同列に語るのは難しいが、こちらはどうだろう。

昨年末、ロシア東部シベリアで、

複数の男性がヒグマをトラックで轢き殺す

映像がネット上で拡散した事件だ。 

〈男の一人が撮影したとみられる映像には、

通常は油田や鉱山の労働者によって

オフロードで使用されるトラック二台が、

雪の上のヒグマに何度も乗り上げる様子が

映っている。 トラックに乗った男の一人は

「やつを押しつぶせ! 押しつぶせ」と

がなり立て、トラックがヒグマを轢くと

歓声を上げている。トラックを往復させて、

起き上がろうとするヒグマを繰り返し

轢いた揚げ句、男らが「まだ生きているぞ」

と言って金属の棒でヒグマを小突く姿も

捉えられている〉(AFPBBNews)

 ネットで映像が拡散された昨年

一二月二七日、ロシア当局は、これら

行為が動物虐待に当たるかどうかを

判断するための調査に乗り出したが、

調査に先んじてセルゲイ・ドンスコイ

天然資源環境相は、「この悪党どもに

もっとも厳しい罰を求めていく」と述べた。

すでに男たちの身元も判明しているらしい。

 ヒグマを轢き殺そうとした男たちは、

戦々恐々としながら新しい年を迎えた

ことだろう。アナグマを撲殺し、

その写真をSNSにアップした高校生は、

寄せられた批判の多さに驚き、

戸惑っていたというが、彼もまた

どんな思いで新年を迎えたのか。

後悔や煩悩は、除夜の鐘で振り払えただ

ろうか。 でも、うるさいとクレームが

ついて除夜の鐘を鳴らさなかったら、

私たちはどこで煩悩を払えばいいのだ。

あの鐘を鳴らす人ももう紅白に出ないし。 

というわけで、新年快楽です……、

と、いかん。これは蓮舫党首がSNSに

書き込んだら、それは中国式の

挨拶じゃないかと指摘されて急いで

削除した言葉だった。

本年もよろしくおつきあいください。

参考記事:読売新聞2016年12月19日付J-castテレビウォッチ2016年12月8日付東スポWeb2016年12月21日付朝日新聞2016年12月25日付AFPBBNews2016年12月28日付週刊新潮2015年10月1日号 他(ノンフィクションライター 降籏 学