ナショナル ジオグラフィック日本版 9月7日(水)7時40分配信
一卵性双生児が人間以外では
きわめて珍しいのはなぜか
先日誕生した2匹のアイリッシュ・
ウルフハウンドが、科学者の間で
大きな話題となっている。この2匹が、
犬としては世界で初めて、
遺伝子分析によって一卵性双生児で
あると確認されたからだ。
犬にも一卵性双生児が生まれると
いうのは、かねてより言われてきたことで
あり、実際にそういった事例の報告も
あったものの、科学論文によってそれが
裏付けられたのは今回が初めてとなる。
双子というのは人間には比較的よく
見られる一方、他の種においては
きわめて珍しいという。
カレンとロミュラスと名付けられた
一卵性双生児の子犬の出産を
手がけたのは、南アフリカ共和国の
モガレシティーにあるラントエンダル
動物病院の獣医、
カート・デ・クレイマー氏だ。
同氏は苦しむ母犬に帝王切開を
施している最中、2匹の子犬の臍帯
(さいたい)が、それぞれ同じ胎盤に
繋がっていることに気がついた。
獣医としての数十年間の経験の中で、
こうした例を見たのは初めてであった
という。
このときの出産では他にも5匹の
子犬が生まれたが、その子たちは
一般的なケースと同じく、1匹ずつ
別々の胎盤に繋がっていた。
カレンとロミュラスの外見は驚くほど
似ていたものの、白い模様に少しだけ
異なる部分があった。しかし2匹の
血液サンプルは、彼らが間違いなく
一卵性双生児であり、ひとつの受精卵が
分割して誕生したことを示していた。
模様の微妙な違いは、同じ遺伝子群を
持った2匹の子犬でも、各遺伝子の発現は
ちょっとした環境要因によって影響を
受けるという事実を考えれば不自然では
ない。これは人間の一卵性双生児の
外見がまったく同じではないことの
理由のひとつでもある。
デ・クレイマー医師はその後、
オーストラリアにあるジェームズクック
大学のキャロリン・ジューン氏、
南ア・プレトリア大学の
ジョハン・ネースリング氏など数名の
学者の協力を得て双子の子犬の分析を行い、
その成果を先日、学術誌
『Reproduction in Domestic Animals』に
発表した。
人間以外において、一卵性双生児が
確認されるケースはきわめて稀であると
執筆者らは指摘する。論文の中ではまた、
一卵性双生児が生まれたものの、
記録に残されていない可能性についても
言及されている。野生動物(さらには
家畜やペットでも)を対象とした
遺伝子検査は、これまでごく少数しか
行われてこなかったからだ。
野生動物の中では、少なくとも1種類の
動物(ココノオビアルマジロ)が、
常に一卵性の四つ子を産むことが
わかっている。
人間に比べ自然界では双子が少ないこと
について執筆者らは、ひとつの胎盤の
中に2つの個体がいると、それぞれに
与えられる栄養分が少なくなるから
ではないかと考えている。厳しい自然界に
おいては、そうした子供は丈夫に育たず、
1匹で生きていく力を持てない可能性が
ある。人間の場合、社会的な保護や熱心に
世話をする両親の存在のおかげで、
同様の懸念はかなり小さくなっている。
人間の場合、自然妊娠で双子が
生まれるのはおよそ80回に1回であり、
一卵性双生児はそのうち約3分の1を
占める。一卵性双生児の割合はどの
国や文化においてもほぼ同じだが、
家系に遺伝する場合もある。
二卵性双生児の割合は、特定の
妊娠誘発剤を使うことによって
上昇する傾向にある。
一卵性双生児は、ひとつの
接合子(受精卵)が分割してふたつの
胚が作られることによって生まれる。
二卵性双生児はふたつの受精卵から
成長する。
双子に詳しい心理学者の
ナンシー・L・シーガル氏は、人間の場合、
一卵性双生児は、二卵性双生児やその他の
兄弟姉妹に比べて互いに親密な関係を築く
傾向にあると述べており、事実、
一卵性双生児は似たような習慣や癖を
持ちやすい。しかしその後、徐々に違いが
多くなってくる。これには異なる環境
からの作用のほか、未知の要因が影響
している可能性もあるという。
文=Brian Clark Howard/訳=北村京子