あるエキゾチックアニマル系の
ペットショップのサイトに、下記の
ような表示が出ていました。
「CB」というのは“Captive Bred”の
略で、飼育下で繁殖された個体という
意味です。つまり動物園で生まれた
個体だと書いてあるのです。

このショップではこれまでも
動物園由来の動物が売られていましたし、
このとき載っていたのもコツメカワウソ
だけではなかったのですが、動物園で
生まれてペットショップに売られるとは
かわいそうに……と思い、生年月日で
検索したところ、平川動物公園のサイトに
ずばり2015年(平成27年)3月2日
生まれのオスが2頭いることが
書かれていました。
また、記載とは1年違いですが、
2013年(平成25年)1月3日生まれの
メスもいます。このメスは、後日、
2014年生まれが正しいことが判明
しますが、まず平川動物公園にブログに
載っているこれらのコツメカワウソは
すべて園にいるか、最近園を出た個体が
いるか、質問しました。
すると4月29日に以下のような
回答が来ました。
コツメカワウソについてのお問合せの
件ですが、
平成27年3月2日生まれのうちの1頭
平成25年1月3日生まれのうちの1頭
合計2頭を
株式会社 有竹鳥獣店さんへ今月
(今年4月)搬出しております。
やはりコツメカワウソたちは
いなくなっていました。しかも
有竹鳥獣店というのは、動物園に
動物を卸していることで知られる
動物商です。
以前、カンボジアからのゾウ輸入の
問題が起きたときに、平川動物公園は、
交換する動物を自園と同じくらいか
もっとよいところにしか出さないと
言っていたのですが、やはりあれは
あのときだけの話だったのでしょうか?
そこで、上記の回答に対し、
「ペットショップで売られていると
思います」と指摘し、
このペットショップは東京の
移動展示即売会でも見かけること、
非常に小さいケージに小型の哺乳類を
入れて売っていること、その際、
激しく常同行動をしている動物がいる
など、かわいそうに思える状態である
ことを伝えました。
そして、このコツメたちを取り戻すか、
有竹鳥獣店に他の動物園を探させるか、
何とかならないか聞きましたが、
驚くべきことに、今度は以下のような
回答がきました。
コツメカワウソの交換契約に関しまして
お問合せの件ですが、
有竹鳥獣店さんからは、「きちんと
飼育できる所にしか譲っていない。」と
聞いております。
動物園で多様な動物種を継続的に
飼育展示していく上では、計画的に
繁殖させ、血統を更新していく必要が
あり、出来れば動物園同士で交換を
することが望ましいのですが、
相手方と当方で移動を希望する動物種が
一致しないことも多く、どうしても間に
調整役として動物取扱業者が入ってくる
ことがあります。
動物園としましては、これまで通り、
違法でないペット飼育に関しましては、
生態に関する正しい知識や飼育方法、
飼育に必要な設備、もし飼育するので
あれば責任を持って終生飼育すること
などを、一般の方々に対して普及指導
していく方針でおります。
「きちんと飼育できる所」……。
ペットショップの小さな檻が「きちんと
飼育できる所」に思えないのはもちろん
ですが、ペットショップ経由で売られて
しまうのであれば、動物商には、
動物が誰にどのような環境で飼われるか
など、全くわからないはずではないで
しょうか。
しかも、この2匹と思われる
コツメカワウソが、東京で5月に
開催されたエキゾチックアニマルの
展示即売会に連れてこられていましたが、
写真のような状態でした。
(文章は写真下へ続く)





ちなみに、店員はどこの
動物園生まれかは「わからない」と
言っていました。法制度上、
動物取扱業者は展示販売時に
「生産地」の表示をしなければ
いけませんし(細目第6条二)、
購入者に対しては繁殖を行った者の
氏名を提供しなければいけませんが
(動愛法第二十一条の四)、
そのようなことがありうるの
でしょうか。
しかし、後日別の方が確認した際も
、由来を知らないだけではなく、
2匹が別系統であることが重要で
あって、どこで生まれたかは関係ないかの
ような対応だったとのことでした。
後述するようにコツメカワウソは
CITES付属書Ⅱ掲載種であり、
日本動物園水族館協会では血統登録を
行っているのですが……血統を気に
するのであれば、ペットも血統管理を
するべきではないでしょうか。
ちなみに、この日は別のショップの
ブースでも動物園由来と書かれた
コツメカワウソのケージがありました。
■東京都から有竹鳥獣店に対し指導!
コツメカワウソを売っているショップが
情報を持っていないのは本当のように
感じられましたが、動物取扱業の規制上、
登録業者が同じく登録業者に対して
動物を販売する場合、動物愛護法
施行規則第八条第五項に挙げられている
説明事項18項目を伝えなければならない
ことになっています。ではなぜ、
ショップは情報を持っていないのか?
平川動物公園は、出生証明書では
ないがそれに準じるような情報が
記載された書類を添付して動物商に
動物を渡したとのことですから、
施行規則第八条第五項の
「カ 繁殖を行った者の氏名又は
名称及び登録番号又は所在地」を含め、
詳細な情報を教えずに取引先に
卸したのは、有竹鳥獣店の疑いが
濃厚です。
この違反の可能性を東京都に伝えた
ところ、早速、東京都動物愛護
相談センター城南島出張所が立入をし、
台帳の確認まで行ってくれました。
結果判明したのは、2013年1月3日
生まれとあった個体は、やはり
2014年生まれであり、有竹鳥獣店が
間違えて卸し先に伝えていたと
いうこと。また、平川動物公園は
病歴やマイクロチップ情報などまで
きちんと伝えていたのにも関わらず、
有竹鳥獣店は、性別や誕生日など
基本的な情報しか卸し先に伝えて
いませんでした。
そして、一番驚いたのは、
有竹鳥獣店から直接上記のショップに
販売されたわけではなく、間に
2~3業者が入っているらしいこと……。
まさに「動物転がし」の世界です。
説明事項18項目の伝達については、
都から有竹鳥獣店に対して指導が
なされました。動物の飼育に必要な
情報を十分伝えない業者が、手広く
動物を卸してきたことに疑問を
感じます。
■福岡市動物園の
コツメカワウソも……
4月の末、また同じショップに
コツメカワウソ入荷の情報が
ありました。

生年月日で検索すると、今度は
福岡市動物園のサイトに
2014年10月12日生まれが4匹
掲載されています。
風(ふう) ♂ 2014.10.12 生
空(くう) ♂ 2014.10.12 生
桜(おう) ♀ 2014.10.12 生
海(かい) ♂ 2014.10.12 生
この4匹は全て現在も飼育中か聞いた
ところ、やはり動物商である南北貿易に
4月2日に2匹を放出。
いなくなったのは、空と海です。
しかも南北貿易から行った先は、
当会にもたびたび通報が寄せられて
いる、ある私設の動物施設とのこと。
見世物小屋に近い感じですが、動物の
販売やレンタルなどもやっています。
動物愛護行政が毎月のように立入・
指導を繰り返していると明言している
ところです。
コツメカワウソは、短い期間で
すぐ転売されてしまったのでしょうか?
聞いても、どうにもはっきりしません。
いるようなことも示唆しますが、
すぐ別々にしたとも言っていました。
動物園は、公立の施設は情報公開請求も
できますし、言えないことはあるにしろ、
昔に比べて嘘まではつきづらくなって
きているのではないかと感じますが、
私立の施設はまだまだ「言わないのが
お約束」がまかり通る世界です。商売の
ための嘘が許される世界なので、
何とも断言できません。
その後、空と海はウェブサイトから
消えましたが、福岡市動物園も、
どこだか言えないような場所に放出
するのは止めてほしいものです。
(下図参照)

なぜ施設名を出せないのか聞いたところ、
直接渡したわけではなく、行き先は
伝聞で聞いただけだからと言って
いましたが……本当は1匹は
ペットショップにいるかもしれません。
■日本動物園水族館協会(JAZA)の
見解は?
これらのコツメカワウソが売られて
いるペットショップには、頻繁に
動物園由来の動物が入荷しています
(例えばアメリカビーバー、
アカハナグマ、ミーアキャット、
キンカジュー、プレーリードッグなど)。
また、インターネット検索をすれば、
常時幾つかのショップで動物園由来の
動物は見つかります。
さらに、例えば輸入禁止となった
プレーリードッグは動物園がペット
流通におけるブリーダーのような役割を
当初果たしていましたし、爬虫類に
広げればもっと事例はあるのではないかと
思います。
一方、今回コツメカワウソの流出元と
なった平川動物公園も、またその疑いの
ある福岡市動物園も、日本動物園水族館
協会(JAZA)加盟の動物園です。JAZAでは、
カワウソを1990年頃から種別調整対象種に
しているとのことで、今は海遊館が
担当館になっています。
動物園は種の保存に取り組んでいると
しきりに宣伝される中、種別調整対象種の
繁殖をして余らせて、ペットショップに
流出させているというのは、問題では
ないのでしょうか。いくら繁殖で動物が
余るからといって、どのような人に
飼われるかわからないペットショップへの
流出をよしとするのでは疑問です。
また、動物園・水族館のイメージも
壊すのではないかと思われます。
動物愛護法の話になると、JAZAや
動物園関係者たちは「自分たちは
ペットショップとは別格なのだから
動物取扱業の規制から外してほしい」等
、主張してきましたが、実態としては
動物商を通して動物の「始末」を
ペットショップ業界に頼っており、
また動物の入手もペットショップに
流すような動物商に頼らざるを得ない
状況です。どう考えても業界として
この3者は一体であると思わざるを
得ません。
そこで、この余剰動物の問題について、
JAZAとしては何かポリシーは持って
いないのか、聞いてみました。しかし
残念なことに、JAZAからの回答は、
以下のようなものでした。
JAZAは、会員が余剰動物を会員以外に
販売することを基本的に禁止しては
いません。
動物商を通じたペットショップへの
流通が適法である限り、会員に対し
販売を規制する権限はJAZAには
ありません。従って、ごく稀では
ありますがペットショップで販売
される動物に動物園の出生証明書が
添付されている可能性はあります。
JAZAとしては、そうした動物が
すべての流通段階において、適正に
取り扱われることを期待しています。
ペットショップにおける動物の
取扱いの適否については、動愛法
所管部局において法令に基づき適正に
指導されるべきものであると考えます。
また、メールに記載のあった事例の
詳細が分からない状況では調査を行う
ことは困難であり、「動物園はペット
業界と一体と言え、JAZAの従来の主張と
矛盾」とのご指摘は当たらないものと
考えています。
JAZA生物多様性委員会が所掌する
調整種、登録種の移動については、
関係省庁への確認・申請が必要で
あるために、当該個体が外部に出る
ことはありません。
日本産動物で国内保護動物の
繁殖個体については、環境省のルールに
則って移動は許可されていないため、
外部に出ることはありません。
(出生証明書と書かれているのは、
当会が質問でコツメカワウソが
ワシントン条約附属書II掲載種で
あることに言及したためと思われますが、
福岡市動物園は出生証明書に類する
ような書類も作成していませんでしたし、
今回問題視したコツメカワウソたちには
添付されていません。)
JAZAとしては、こういったことを
避けるため、繁殖計画をしっかり
立てるよう加盟園館にお願いはしている
そうですが、もっと強い対策が必要では
ないでしょうか。「動物園の実態が
ブリーダー」では存在意義がますます
怪しくなります。自分たちはペット
ショップとは違うと主張するのであれば、
まずペットショップへの動物の流出を
食い止めるべきでしょう。
また、繁殖するにまかせ、数を増やして
ショップに流出させるような動物園は、
環境省が現在検討中の認定動植物園等
(仮称)について、対象から除外される
べきだと思います。平川動物公園は、
今後も繁殖を継続すると述べており、
余剰になれば動物商を頼ることも
否定していません。
展示する動物をキープするために、
不幸な動物を生みだしているのが
動物園です。
意見送り先:
日本動物園水族館協会
Mail:jaza@basil.ocn.ne.jp
FAX:03-3837-1231
TEL:03-3837-0211
〒110-8567
東京都台東区台東4-23-10
ヴェラハイツ御徒町402
鹿児島市 平川動物公園
Mail:hirakawazoo@k-kouenkousya.jp
FAX:099-261-2328
TEL:099-261-2326
〒891-0133
鹿児島県鹿児島市平川町5669-1
福岡市動物園
メールフォーム
TEL:092-531-1968
〒810-0037
福岡市中央区南公園1番1号
■参考
平川動物公園のコツメカワウソに
ついては、先日の朝日新聞の記事が
少し触れてくれています。「Sippo」で
全文読めるようになっていますので、
ぜひご覧ください。
シマウマ「バロン」の死に見る
動物取引 「余剰動物」は動物商に、
動物園の狭さも一因
朝日新聞・朝日新聞デジタル