テレビや雑誌に紹介され、瞬く間に
ねこ寺として有名になった福井県の
御誕生寺。お寺で暮らすねこたちを
見ると、どのコもとても幸せそうな
表情をしている。

「ほかのノラねことの大きな違いは、
人に対する警戒心がまったくないと
いうことです。ねこ好きの方も多く
いらっしゃいますが、ねこたちが
自然体でいるとわかってくださる
ようです」
そう話すのは、3年ほど前に御誕生寺に
やってきた猪苗代昭順副住職。
当時、80匹以上のねこがいたというが、
副住職はねこと人の幸せのため、
一匹一匹のご縁を結ぼうと飼い主探しを
開始。その様子がテレビで紹介されると
希望者が急増し、年に4回ほど行われる
譲渡会では、ねこの頭数より希望者の
ほうが多いこともあるそう。
「すべてのねこに名前と首輪をつける
ところから始めた活動でしたが、
おかげさまで3年間で270匹ほどご縁を
結ばせていただきました。現在は、
福井県内の動物愛護センターからも
ねこを引き取り、飼い主さんを探して
おります」
細かい譲渡条件は設定されていない
そうだが、ひとつだけ大切に
していることが。
「『相性が合わない場合は、
こちらに戻してください』と念押し
しています。一度引き取ったからには
返せないからと無理をしないで
ほしいのです」
先住ねことの相性や生活リズム、
家族構成など、新しいねこと
うまくいかないことも。
お互いの幸せを考えてほしいと
いうことだ。
「一方で日々『飼いねこを引き取って
ほしい』というお電話を受けますし、
お寺にねこを置いていく方も
いらっしゃいます。群馬から8匹のねこを
連れてこられた方もいらっしゃいましたが、
事情をお聞きして話し合い、3匹は
御誕生寺で引き取り、3匹は
動物愛護センターにお願いし、
2匹は責任を持って連れて帰って
いただきました。私どもはねこを
引き取るお寺ではないのです」
春には、妊娠しているねこが
置いていかれた。
「保護して、環境を整えて無事に
出産しました。そのすぐあとに、
もともとお寺にいたフクというねこも
出産したのですが、育児放棄をして
しまったのです。そこで、
生まれたばかりの子ねこ5匹を彼女に
預けてみたところ、自分の子5匹と
合わせた計10匹を分け隔てなく懸命に
育ててくれたのです。当時、
彼女には名前はなかったのですが、
その姿に胸を打たれた修行僧たちが
『マリア様だ』と話していたことから、
マリアと名付けました」
元気に育った10匹の子ねこたちは、
すべて新しい飼い主さんに引き取られた
のだそう。マリアはねこ界の
ビッグマミィとして現在もお寺で
愛されている。