「奈良のシカ」大異変? 外国人客も増えて悩みも噴出 | トピックス

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Yahooニュース 記事 田中淳夫
 2016年05月23日 12:19




奈良も、外国人客が急増している。

彼らに人気なのは、
東大寺の大仏のほかは、圧倒的に
「奈良のシカ」だ。
(「奈良のシカ」と書いた場合、
奈良県のシカではなく奈良公園周辺に
生息するシカのことである。)
私の見たところ、外国人観光客は
社寺の仏像よりもシカの方を
喜んでいる。

今や地方の農山村地域で
「シカ」と聞くと、
もはや獣害対象でしかない。
被害額は獣害全体で1000億円を
超える(農水省統計では
200億円以上としているが、
届け出されない分を含めると
5倍以上と言われる)が、その過半が
シカではないかと想像できる。
なにしろ推定生息数は
全国で325万頭である。
イノシシの4倍近いのだ。

だから駆除対象になり、
ハンター養成が課題とされ、
狩り女子に注目が集まったり、
その肉をジビエとして売れないか
模索したり……と騒がれるのだ。

しかし、「奈良のシカ」の悩みは、
ちょっと違う。

ちょうど奈良県が「奈良のシカ」
に関するシンポジウムを開いた。
「奈良のシカ」の生態が急速に変わって
保護管理の方法も
考え直さなければならないことを
訴えていた。一体、「奈良のシカ」に
何が起きているのだろうか。

「奈良のシカ」は現在1100頭あまり。
基本的に野生である。
しかし市街地を闊歩し、
人にも警戒せずに寄ってきて、
シカせんべいをもらって食べる。
身体を少々触られても平気。
なかには商店街を歩いて店の中まで
入ってくるシカもいるし、
横断歩道で信号が赤なら渡るのを
待つシカも普通にいる。

これには日本人でも初めて訪れた人は
驚くらしい。
子供の頃から“つきあい”のある私には
自然なのだが、周りに人がいっぱいいて、
車がブンブン走り、ビルディングが
立ち並ぶ中をシカが歩いているのは
不思議な光景なのだろう。

シカのような大型動物が
都会で人と共存しているのは、
おそらく世界でもここだけだ。

奈良では平城に遷都した1300年前から
シカと共存してきた。神の使い、
神鹿として崇め保護してきたのである。

奈良の都を建設するために森林を
伐採したことで草原が増え、
それがシカにとっての餌を供給したと
いう見立てもある。しかも神の鹿として
保護されたのだから
数が増えないわけがない。

「奈良のシカ」は、
夜を春日山の森で過ごし、朝になると
奈良の町に出勤する。
境内などの草を食べつつ、
昼間は奈良の町に出て
観光客の相手をしてシカせんべいを
オヤツにもらう。夕方にはまた森に
帰宅し就寝する……という
日常を送っているとされた。

シカは草を食みながら、
糞をする。その糞は虫と菌類によって
分解され、土の栄養分となる。
おかげで草もよく生えた。
そんな循環があるのだ。


観光客に人気の飛火野のシカ寄せ風景。

ところが、
近年の観光客の増加によって、
終日シカせんべいばかりを食べている
シカも現れたらしい。
それどころか食べきれない。
ゴールデンウィークなどには、
あまりの観光客の差し出す
シカせんべいの多さに
そっぽを向く姿が報告されるほどだ。

さらに
「餌やりたがりオジサン・オバサン」も
登場した。自宅から餌を持って
シカに与えるのだ。それが軽トラで
運ぶほどの量のケースもある。
しかも残飯などは、シカが時に
消化不良を引き起こす。
スパイスの効いたから揚げや
お菓子を食べたら、シカの命に関わる。
間違って菓子の袋などを
食べてしまうケースも報告されている。

一方でシカの交通事故も増えている
らしい。毎年100頭あまりが
事故死しているそうだ。
加えて野犬に襲われるケースも
起きている。

シカによる人身事故も急増中だ。
外国人などがシカをペット感覚で扱って、
かまれたり角で突かれたりするよう。
ほとんどは軽微な怪我とのことだが、
なかには転倒して頭を打ったり、
縫合の必要な裂傷を負ったり
骨折事故も起きたという。

シカは意外と大きな動物なのである。
雄シカなら体重が
70キロを超えるものも珍しくない。
それが身体をぶつけてきたら、
子供だと吹き飛ぶ。

加えて昔ながらの悩みである
農作物被害も、なかなか減らない。
奈良公園周辺の農地では、
シカ柵を設けずに栽培するのは
ほぼ不可能だ。

もっとも、奈良のシカ」の中には、
公園に出ず森の中で過ごす一群も
いるそうだ。
観光客に媚を売るのに
嫌気がさしたらしい……。

しかし、森の草や稚樹をあまりに
食べるため、森が荒れてきた。
本来のシイ・カシ類が減って、
シカが食べないアセビやナギ、
ナンキンハゼばかりが増えている。

このように問題は続出しているが、
かといって「奈良のシカ」を人と
触れないように隔離することは
できないし、するべきでもないだろう。

実際、奈良県・奈良市、
奈良の鹿愛護会、そして有志の人々は、
シカ相談室を設けて苦情に対応したり、
ときに見舞金を拠出したりしている。
もちろんシカの保護にも尽力している。
今後、どんな策をもって奈良がシカと
共存を続けるのか注目したいところだ。


奈良の鹿愛護会では「鹿救助隊」を設けている。

以前、林業家を奈良の町案内したとき、
「シカがそんなに大切で保護するのなら、
全国のシカを奈良に集めて閉じ込めて
くれないかなあ」と言われた。
それはないだろ。奈良も苦労して
シカと共存しているのだから。
それに……シカは近くで見ると、
やっぱり可愛い。
「せんとくん」「しかまろくん」
のようにシカの角を生やした
キャラクターも人気だ。

むしろ、奈良の努力を
全国のシカ害対策に活かしてほしい。

※Yahoo!ニュースからの転載